北朝鮮の人権問題を担当する国連のダルスマン特別報告者が14日、国連人権理事会で各国との協議に臨む。同氏は最新の報告書で、金正恩第1書記に対して「人道に対する罪」で調査する可能性があることを公式に通知するよう国連人権理事会に求めている。
「人道に対する罪」に問われるということは、金正恩氏がアドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ポル・ポトなどの虐殺者と同列に扱われることを意味する。
国連安全保障理事会からは強力な経済制裁を決議され、さらに人権理事会で「人道に対する罪」の疑いを討議されるというのは、国家の指導者にとって最悪の状況だ。
しかし、だからと言って金正恩体制が完全に崩れ落ちるわけではない。日本や韓国、米国の人々からは北朝鮮が最悪の存在に見えても、世界にはまったく違う視点を持った国々もある。たとえばロシアは、米国の困ることは何でもウェルカムという立場だし、北朝鮮の核兵器に対し潜在的な需要を持っている国もある。
人権問題にしてもそうだ。北朝鮮の政治犯収容所では想像を絶する虐待が現在進行形で行われている可能性があるが、それを止めさせるために、軍事力を行使しようという国はないし、日本政府だって、拉致被害者を救出するためにあらゆる努力を重ねているとは言いがたい。
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また、難民を拒絶するような発言を重ねるドナルド・トランプ氏が米大統領選の共和党候補指名レースで快走しているように、武装勢力「イスラム国」(IS)のテロ圧力の前で、人権の価値はますます相対化している。
シリアと友好関係を結ぶ北朝鮮は、少なくとも間接的にはISと敵対しているが、ISが跋扈する状況が、金正恩氏を側面から助けている構図と言えるのだ。
ということは、人権を論じられる環境にある私たちが北朝鮮の人権問題と向き合うことには、世界史的な意味があると筆者は考えている。シリアと北朝鮮の人権問題、そして日本人拉致問題は、決して無関係ではないのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。