金正恩第一書記が、「核弾頭」や「先制攻撃」に言及しながら米韓を非難した。北朝鮮メディアは4日、正恩氏が「新型大口径放射砲」の試験発射の現地指導したことを報道。7日から開始予定の米韓合同軍事演習や、国連の対北制裁への反発と見られるが、正恩氏の言葉として「朴槿恵の狂気」と述べるなど、極めて厳しい内容となっている。
制裁が採択される前週(2月27日)には、金正恩第1書記が対戦車誘導兵器の試射を視察したことを朝鮮中央通信が報じられているなど、米韓合同軍事演習や制裁を意識して真っ向から対決姿勢を打ち出した。
こうしたなか、北朝鮮は、国内に向けても「戦争ムード」をあおり立てている。朝鮮人民軍(北朝鮮)の最高司令部は28日、韓国大統領府と米本土を攻撃対象として明示した「重大声明」を発表。この直後から2日間で150万人に達する党活動家や青年学生らが軍への入隊を志願し、金正恩第1書記は「大きな誇りを覚え、改めて限りない力と勇気を得ました」とする感謝文を送ったという。
その裏で、砲兵部隊の軍役経験者に対して、再入隊するような指示が下されたとデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。対象者には、北朝鮮の国防委員会から「現代戦は砲兵戦であり、党に育てられた砲兵は統一大戦は重要な役割を果たして欲しい」という指示文が伝えられたという。
なぜ、わざわざ退役軍人を再入隊させるのだろうか。ここに北朝鮮軍が抱える深刻な問題が見え隠れする。北朝鮮では90年代中頃から「苦難の行軍」という大飢饉に見舞われた。当時、幼年期で、現在20代から30代の若者たちは、成長期に栄養を摂取せきなかったことから決定的に体格が小さいのだ。軍事動員部の将校は、こうボヤくという。
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そうでなくても、北朝鮮軍の末端兵士達は劣悪な環境に置かれており、些細なことから殺し合いが起きるなど、規律も乱れている。さらに、野戦軍人出身の軍幹部の粛清が相次ぐ中、戦闘組織としてのモチベーションが低下していることは十分に考えられる。
(参考記事:北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面)現在、指示を受けた退役軍人たちは「自宅待機状態」で、4月末までに対象者の調査が終えたら、状況に応じて再入隊命令が出ると言われている。しかし、北朝鮮当局の指示に対して、住民達は次のように揶揄している。
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「どうせ口だけの『言葉の爆弾(マルポクタン)』だ」
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。