消えゆく北朝鮮版「暴走族」を涙で送る乙女たち

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今年も日本の各地で行われた成人式が荒れたようだ。一部とは言え、ヤンチャな若人や暴走族が、派手にデコレーションされた自慢のバイクで成人式に乱入し、酒を飲んでは、無法の限りを尽くす――こうした風景は良くない意味で成人式の風物詩となりつつある。

暴走族という極端な示威行動はさておき、古今東西、バイクは若人にとって憧れのアイテムだ。そんなことを考えていると、ふと思い出したことがある。拉致被害者である曽我ひとみさんの夫であるチャールズ・ジェンキンスさんだ。

北朝鮮にいたころ、筋金入りのバイク好きだったジェンキンスさんは、壊れたバイクをベースにした改造マシンでバイクライフを楽しんでいたという。このエピソードはバイク雑誌にも掲載され、ジェンキンスさん本人が表紙を飾った。

(参考記事:北朝鮮で「改造バイク」に乗った拉致被害者の夫

ジェンキンスさんが北朝鮮にいた時、一般住民がバイクを乗ることは、まだ珍しかったようだが、その後、市場経済が急速に発展するなかで手頃な移動手段、輸送手段として重宝され、増え始めた。

やはり、中国製バイクが最も多く普及しているが、イチバン人気は日本製のヤマハ、スズキ、ホンダのバイクだ。性能だけで無く、形もいいということで「富の象徴」にもなっている。

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経済手段としてのバイクだったが、普及が進むにつれ、趣味としてバイクを楽しむ民衆、つまり北朝鮮のバイカーも増えている。それだけでなく暴走行為をするバイカーたち、すなわち北朝鮮版暴走族も出現している。

北朝鮮の資本主義を牽引する赤い資本家「トンジュ(新興富裕層)」子弟は、財力にものをいわせて高級バイクを購入。ひけらかすために、彼らがまき散らす騒音に多くの人々は顔をしかめているようだが、うら若き乙女たちの目に、彼らの姿はカッコ良く映るようだ。

一方、北朝鮮当局は、暴走行為のみならず、通常のバイク運転にも規制をかけるケースがある。下手をすれば没収されてしまうという。

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しかし、彼らも映画「マッドマックス」や漫画「北斗の拳」の世界のように、暴力・略奪行為を働いているわけではなく、いささか同情を禁じ得ない。もっとも、近未来の朝鮮半島で「核戦争」が起きたらどう変身するかわからないが……。

そもそも、バイク規制を言い出したとされる金正恩第1書記でさえ、「走り屋」の顔をもっているとの噂もある。

自分ばっかり楽しまず、国民と趣味を共有できる国づくりをすれば良いと思うのだが。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記