中国に住む脱北女性は数千とも数万とも言われているが、その中には人身売買の犠牲になり、結婚相手のいない中国人男性に売り飛ばされ、息を潜めながら暮らしている人が少なくない。
たとえば、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)の出身のコ・ジウンさんは1990年代末、2中国で2度にわたり人身売買の被害に遭った。
その時の状況を、彼女はこう語っている。
「脱北した女性たちは公園のようなところに連れて行かれ、一列に並ばされます。すると数人の男たちが寄ってきて『買い物』でもするように、好みの女性を選ぶのです。私たちにはどうすることもできません。従わなければ、中国にいることができないのですから」
デイリーNKの中国の情報筋によると、吉林省の松原市公安局は今年2月、中国人男性2人と脱北女性1人の3人を人身売買容疑で緊急逮捕した。彼らは先月末に開かれた裁判で実刑判決を受けた。男性2人は懲役3年、女性は懲役10年の判決を言い渡され、現在中国の刑務所で服役している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この話を聞いた脱北女性たちは、自分たちを売り飛ばした悪党が刑務所に入れられたことを喜ぶどころか、むしろ不安がっている。自分たちの身辺にも危険が及び、北朝鮮に強制送還されるかもしれないからだ。そうなれば、人権蹂躙のひどい同国においても、特に残酷な状況に追いやられるのは明らかだ。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
松原市公安局は、この人身売買の被害者数十人のリスト、脱北女性を「買った」中国人男性のリストを確保した。中国人男性は様々な地域に住み、その背景もバラバラだが、公安局は中国の法律に則って、彼らに対しても法的措置を行うために、居住地域の公安局に協力を要請した。再発防止のために罰金刑や短期の懲役刑ではなく、重罰に処すべきとの方針を示した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方で、中国人男性と暮らして子どもを産んだ脱北女性の管理を徹底すべきとも強調した。
協力要請を受けた各地の公安局は、人身売買被害に遭った脱北女性と、彼女らを買った中国人男性に必要な法的措置を取るために所在把握に乗り出した。
この事件は吉林省政府も大きな関心を持って見守っている。今後中国人であろうが北朝鮮人であろうが、人身売買に加担すれば処罰されると警鐘を鳴らし、人身売買の予防と根絶の重要な契機になるだろうと評価しているとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国公安当局は、中国人男性と結婚した脱北女性を管理下に置き、「韓国行きを試みるなど余計なことをすれば北朝鮮に送り返す、そうなれば銃殺だ」などと脅迫している。
なお、上述の米国務省人権報告書は、北朝鮮についても、政権による不法・恣意(しい)的な殺人、強制失踪、拷問、児童労働など非人道的行為がはびこっていると指摘した。脱北女性は、「よりマシな地獄」である中国で息を潜めて暮らすか、「よりひどい地獄」の北朝鮮に送り返されて、銃殺を含めた重罰に処されるかのいずれかの選択肢しか与えられていない。
(参考記事:「銃殺されたいのか」中国公安の脅迫に震える北朝鮮女性たち)