北朝鮮の金正恩総書記は3~4日に行われた第5回全国母親大会で開会の辞を述べ、「出生率の低下を防ぐべき」と言及した。これを受けて韓国政府も、少子化が北朝鮮においても深刻な問題になっているとの見方を示している。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
韓国統一省が10月に発表した報告書「最近の北朝鮮の経済・社会特異動向」によると、2023年現在の北朝鮮の人口はおよそ2千616万人。しかし、来る2034年からは人口が減少するものと予想されている。
今年の北朝鮮の人口成長率は0.34%、合計特殊出生率は1.79人となっている。日本や韓国よりは多いものの、他の一般的な低所得国の人口成長率2.7%、合計特殊出生率4.47人より大幅に低い数値となっている。
北朝鮮の少子化の背景には、食糧難や統制の厳しさからくる生きにくさ故に、晩婚化が進んだり、「子どもを持つまい」と考える若者が増えたりしていることがあると言われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は11月13日付の記事で、女性兵士らが兵役時に女性疾患をわずらったり、性暴力にさらされたりしていることが、影響を与えている可能性を指摘している。
RFAの記事で、17歳から27歳まで、よそ10年間、北朝鮮の軍将校として服務した脱北女性のキム・ダングムさんは、次のように語っている。
「軍隊に入り、3カ月間の新兵訓練期間中に生理が止まりました。1990年代半ばの『苦難の行軍』の時には、軍人が栄養失調にかかり生理も止まり、訓練に支障が出る場合がありました。(北朝鮮の軍内で生理不順は)ありふれたものです。兵役期間中ずっと(一度も)ない軍人もいました。6~7年間も生理がないんです」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮の女性兵士の具体的な数は不明だが、アメリカ中央情報局(CIA)の「ワールドファクトブック」は全軍のおよそ20%と見積もっている。朝鮮人民軍の兵力はおよそ120万人と見られており、その20%が女性軍人ならおよそ24万人に上る。さらに、ここに準軍事組織である労農赤衛軍の女性兵士が加わる。
(参考記事:「冷たい地面に腹這いで何時間も」北朝鮮女性兵士の理不尽な苦痛)「米韓合同軍事演習(への警戒態勢)の時は、女性兵士も外で寝起きします。合同演習が半月続くと、15日間、同じように過ごします。 陣地で1日3食、雪や雨に降られながら食べて寝て、それで女性たちが体を冷やします。 私も赤ちゃんを産めないと思いました」(キム・ダングムさん)
北朝鮮の女性兵士のすべてがこれと同じ境遇にあるとは限らないが、少なくとも万人単位の若い女性が、粗末な装備と劣悪な環境の中、こうした過酷な体験をしているということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、脱北前に北朝鮮で医師を務めていた高麗大学公共政策研究所のチェ·ジョンフン先任研究員はRFAに対し、北朝鮮の軍隊内にはびこる性暴力も女性の不妊に悪影響を与えていると語っている。
「北朝鮮の女性兵士たちは兵役期間中に恋愛関係か性交渉を持つこともあるが、性的暴行を受ける場合もあります。北朝鮮では避妊もあまりしません。それで妊娠すると、中絶手術をすることになります。手術なので抗生物質をしばらく服用しないと炎症を防ぐことができませんが、これがうまくいきません。そうするうちに子宮内膜炎などにさらされるんです。 子宮内膜炎が不妊の最大の原因にもなります。北朝鮮の女性兵士は除隊後に、いちばん望んでいるのが入党、つまり(朝鮮労働)党員になることが重要なのですが。 そのために性上納も行われたりします」
チェ氏が言わんとしているのは、入党の推薦権を持つ男性上官が女性兵士に性上納を強要し、入党に人生の望みをかける庶民層出身の女性は応じざるを得ないということだ。
北朝鮮の少子化の背景にある闇は深い。金正恩氏が本気で人口減少を食い止めたいなら、全国から集めた母親たちにはっぱをかけるだけでなく、女性兵士が置かれたこうした現状にメスを入れるべきなのだ。