北朝鮮で治安の悪化が止まらない。
新型コロナウイルスの流入を極度に恐れた北朝鮮は2020年1月、国境を封鎖し、貿易を停止させて鎖国状態に入った。自力更生を謳ってはいるが、実際は貿易依存度が非常に高く、人と物の行き来を止めたことで深刻な食糧、物資の不足が起きて、餓死者も出す事態となった。
極端なゼロコロナ政策が、逆に人の命を奪う結果となったわけだが、それは飢えて死ぬ場合に限らない。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
北東アジアで最大規模の埋蔵量を持つと言われ、「朝鮮の宝」とまで言われた鉄鉱山を擁する中国との国境沿いにある茂山(ムサン)。かつては北朝鮮国内でも豊かな地方とされていたが、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁により輸出ができなくなり、地域は深刻な不況に陥った。
(参考記事:北朝鮮「陸の孤島」が震撼する、ある家族の全滅事件)それに伴い治安が悪化し、最近では通行人を刃物で脅し、薄暗い路地奥に引きずり込み、金品を奪う強盗や、コートやジャケットを奪う追い剥ぎが多発している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、経済的に余裕のある家、とは言っても「めぼしいものがあるわけではなくなんとか白いご飯を食べられる程度」(情報筋)の家が強盗のターゲットになり、食器や家具類まで盗まれている。
情報筋は、茂山の治安状況を「針泥棒が牛泥棒になる」という朝鮮のことわざで表した。つまり、犯行の手口が大胆になり、以前では考えられなかったような凶悪犯罪も増えているということだ。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一例を挙げると、家で留守番をしていた10代のA君は、突如として家に踏み込んできた強盗から家財道具を守ろうと、必死の抵抗をしたが、凶器で刺された。外出から戻った両親が倒れているA君を発見したが、すでに事切れた後だった。家からは固定電話機、A君の使っていた携帯電話、コメ、衣服がなくなっていた。
北朝鮮ではあまり普及していない固定電話があったことを考えると、A君一家は、幹部やトンジュ(金主、ニューリッチ)などに属する経済的に余裕のある家と思われる。一人息子を失った悲しみから、父親は酒浸りの生活を送っており、母親は寝込んでしまった。
茂山郡安全部(警察署)は捜査に乗り出したが、今のところ容疑者の逮捕には至っていない。
(参考記事:「頼みは2頭の番犬だけ」北朝鮮の治安当局は無能の極み)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
情報筋は「これらすべては経済的困難が原因で、それを放置した国に責任がある」と国を批判し、せめて食糧配給だけでも行えばこのような犯罪は防げたはずと述べた。
輸入制限が徐々に緩和され、コメの輸入が増やされていると伝えられているが、全国的に行き渡るほどではないようだ。輸入に依存している経済という現実を無視し、国を閉じるという愚策を取った金正恩政権が、貴重な人命を奪っているのだ。
(参考記事:「殺人もいとわぬ世に」北朝鮮で“生計型犯罪”が激増)