北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は12日付の「政論」で次のように論じ、金正恩総書記が体調を崩していたかのような状況に言及している。
「自身の痛みと労苦はすべて伏せ、ひたすら愛する人民のために、ああまで魂を燃やし、誠を尽くせば石の上にも花を咲かすとの言葉があるとおり、われわれは人民のために誠を尽くさねばならぬと熱く語られたとき、彼を仰ぎ見つつこみ上がる嗚咽を禁じえなかったというイルクン(幹部)たちの話が胸を打つ」
金正恩氏の体調を巡っては、妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長が10日、平壌で開かれた新型コロナウイルスに関する全国非常防疫総括会議での討論で、次のように語っていた。
「この防疫戦争の日々、高熱の中でひどく苦しみながらも、自分が最後まで責任を負わなければならない人民たちのことを考えて一瞬も横になれなかった元帥さま」
これを受けて、日韓のメディアなどでは金正恩氏が新型コロナに感染していたことを示唆したものであるとの観測が浮上している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国の聯合ニュースは、「基礎疾患のない新型コロナ患者の治療には通常1週間かかるとされるが、ここ最近で正恩氏の動静が1週間以上報じられなかったことが3回あった」と指摘。続けて「4月末に行われた軍事パレードや関連行事で多くの人と接触し、新型コロナに感染した可能性もある」と分析している。
これは合理的な分析であり、興味深い見方だ。確かに、金正恩氏が新型コロナに感染していた可能性はあるだろう。そもそも、2年以上にわたり国内での感染者はゼロだと言い続けてきた北朝鮮が、5月になって感染者発生を認め、防疫体制を強化したのも、金正恩氏の体調の異変がきっかけだったのかもしれない。
ただし、北朝鮮側から出たこの種の情報は、割り引いて受け止めるべきものであるのも事実だ。北朝鮮には「偉大性宣伝」なるものがある。最高指導者や、その指導を受ける党が、いかに「偉大」であるかを誇示し、国民を感化するための思想教育の一形態だ。そのためには、最高指導者の動静の些細な部分までが誇大化して活用され、完全にねつ造されることも少なくない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面つまり、金正恩氏がほんの少し体調を崩しただけでも、大げさに宣伝する可能性が小さくないということだ。
北朝鮮国内では、新型コロナよりもむしろ厳しすぎる防疫体制のせいで、国民は塗炭の苦しみを味わってきた。処刑や餓死などの事例も枚挙にいとまがない。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面どこか適当なタイミングで、「最高指導者もまた苦しんでいた」と宣伝するのは、体制の安定を図るうえで意味のあることなのだ。
そしてちなみに、金与正氏は長らく、そのような心理戦を担当する党宣伝扇動部に籍を置いてきたと見られているのである。