北朝鮮で今月8日から10日にかけて行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第5回総会拡大会議では、いくつもの重要な人事があった。
注目されているのは、前第1外務次官の崔善姫(チェ・ソニ)氏が政治局委員候補に選ばれ、同国では女性として初めて外相に任命されたことだ。崔氏は米国通として知られていることから、北朝鮮が米国との対話に備えているとの見方も一部にある。しかし反対に、むしろいっそうの強硬路線を取るため、情勢分析に長けた彼女を要職に据えたとの見方もできる。
また、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)と治安機関の人事にも動きがあった。国家保衛相だった鄭京擇(チョン・ギョンテク)氏が総政治局長に任命され、社会安全相の李太燮(リ・テソプ)氏が総参謀長に就任した。
国家保衛省は国民の思想同行を監視し、防諜も担う秘密警察だ。公開処刑や政治犯収容所の運営も担う恐怖政治の象徴でもある。社会安全省は日本の警察庁に相当するが、刑事犯を取り締まるだけでなく、やはり政治犯収容所も運営している。
これら組織のトップだった両氏が軍の要職に就いたことに対し、韓国当局は軍人としての「昇任人事」だと見ているようだ。それもまた事実だろう。ただ、北朝鮮軍のこの間の動向を踏まえてみると、少し違った意味合いが見えてくる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮軍は近年、世界最長の兵役期間を男性は9〜10年から7〜8年、女性は6〜7年から5年に短縮した。さらに、地方の農場や鉱山の人手不足を補うため、一部の兵士を早期除隊させて集団配置するなどの措置を取っている。
北朝鮮も少子化が進行しているため、人口減少による社会の労働力不足が背景にあると思われるが、軍としても、100万人を超えるとされる大きすぎる兵力を養うのが負担になっているのかもしれない。
実際、末端兵士の栄養不足は深刻な状況とされるほか、将校らも待遇が悪化し、不正を働かなければ食べていけないのが現状だ。また、汚職の横行は軍紀びん乱を招き、様々な虐待により、兵士は身も心もボロボロにされてしまう。
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さらに、早期除隊と地方への配置は、兵士らの不興を買っている。兵役中に朝鮮労働党に入党し、大学進学や都市部での就職につなげるのが兵士らのせめてもの願いなのに、それをダメにしてしまうからだ。当人たちにすれば、人生をもてあそばれているに等しい。
兵士らの不満が募れば、軍の統制はいっそう難しくなる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それでも、核兵器に集中投資する金正恩総書記は、長期的には軍をダウンサイジングしていく意向であるように見える。軍の要職に治安機関トップの経験者が据えられたのは、現場の規律を立て直しつつ、金正恩氏の望む改革を進めていく必要性からのものなのかもしれない。