国連の北朝鮮人権調査委員会(COI)が2014年2月に発表した最終報告書によると、北朝鮮に現存する管理所(政治犯収容所)は4ヶ所。1990年代には10ヶ所以上もあったが、大幅に減少した。
政治犯収容所に警備隊員として勤務し、その恐怖の実態を告発し続けている脱北者・安明哲氏によれば、「そこでは人間が想像しうる、ありとあらゆる残酷なことが行われていた」という。まさに、実在する「地獄の一丁目」である。
1993年のフルンゼ軍事大学同窓会によるクーデター未遂や、1995年の6軍団クーデター未遂が「血の粛清」に遭った際には、容疑者らの一族郎党が連日千人単位で送られ、収容者が大きく増えたという。
(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件)その後、管理所の数が減少したことについては、運営の効率化のためとも、国際社会の目を気にしたからとも言われているが、北朝鮮はここに来て、その施設を拡充する動きを見せている。
デイリーNK内部情報筋は、当局が先月末、管理所の収容能力を高めよという指示を、国家保衛省(秘密警察)と社会安全省(警察庁)に下したと伝えた。収容すべき人が増えるから施設を拡充するということだが、そのターゲットになるのは「禁断映像」のファンたちのようだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:【写真】美人女優ピョン・ミヒャンの公開処刑で幕を閉じた「禁断の映画」摘発の内幕)
昨年12月4日の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」は、韓流ドラマ、映画、K-POP、ラジオ放送など韓国を含めた海外の文化コンテンツや、アダルトビデオ(AV)の視聴、販売など、当局が「反社会主義、非社会主義」と見なす行為をターゲットにしたものだ。
当局はこの「反動的思想・文化排撃法」違反者を収容するために、管理所の収容能力の増強に踏み切ったのではないかという見方がなされている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「新たにできた党検閲(監査)部署が、全社会を赤旗思想で一色に染め上げる大々的な事業を行う予定だ。非社会主義、反社会主義との戦争を宣言したが、それに背く者はポスト、功労、成分(身分)とは関係なく処罰される」(情報筋)
(参考記事:「韓流ドラマ見て死刑」連発が懸念される北朝鮮・韓流取締法の中身)金正恩総書記は、朝鮮労働党第8回大会に加え、党中央委員会第8期第2回総会でも、強力な教養(思想教育)と規律であらゆる反社会主義、非社会主義的現象、権勢、官僚主義、不正腐敗、税金外の負担などのあらゆる犯罪行為の打破を強調している。厳しい取り締まりを行うとなれば、収容施設が必要になるという自然の流れで、施設拡充の方針が出されたと見られる。
(参考記事:「国営企業を不法な金儲けへ進ませる」金正恩氏、経済計画を辛辣に批判)情報筋は、新設部署が実績作りと見せしめのために、違反者を次々と管理所送りにする可能性があると懸念を示した。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
一方で北朝鮮は、新型コロナウイルスの防疫規定の違反者も政治犯扱いして管理所送りにしている。
別の内部情報筋は昨年12月、社会安全省が黄海北道(ファンヘブクト)に小規模な管理所を設置し、新型コロナウイルスの防疫規定の違反者を収容していると伝えた。
「防疫規定を遵守、貫徹しなかった住民、幹部、軍人すべてを、党の政策に反抗した者として烙印を押している。彼らのうち、違反の程度がひどい者、首謀者は銃殺、それ以外は国家保衛省が運営する管理所に送り込んでいる」(情報筋)
もちろん、深刻な人権侵害が行われていることは言うまでもない。
「新入りの収監者に炭鉱労働を強いて、作業終了後には7人1組にして走らせる。祖国を前にして犯した罪を反省せよ、というワケだ」(情報筋)
管理所内では、充分な食事など期待できないことは言うまでもない。そんな状態で走らされるので倒れる人が続出するが、倒れていた時間の10倍を走らされる。そんな拷問で、12月初めに新たに収監された人53人のうち、6人が死亡したと情報筋は証言した。
(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も)