北朝鮮当局が先月25日の「先軍節」60周年に際し、軍高官らを対象に、金正恩党委員長の母・高容姫(コ・ヨンヒ)氏と、李雪主(リ・ソルチュ)夫人の活動を収めた記録映画を上映したと、韓国デイリーNKの内部情報筋が伝えている。先軍節は、金正恩氏の父・金正日総書記が行った先軍政治を記念する国家の祝日だ。
この映画が事実なら、北朝鮮で高氏と李氏の活動が1本にまとめられた映画が上映されたのは初めてと見られる。
気になるのは、この映画に込められた金正恩氏のねらいだ。金正恩時代の大きな特徴のひとつが、女性たちの活躍ぶりである。妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長と崔善姫(チェ・ソニ)第1外務次官、玄松月(ヒョン・ソンウォル)党副部長らが代表的だが、李雪主氏もファーストレディーとして、金正恩氏の父親や祖父の代では見られなかった役割を果たしている。
特に金正恩氏は、李雪主氏の権威を自らの権威と不可分のものとして、極端な手法まで動員して守ってきた経緯もある。
(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面内部情報筋が韓国デイリーNKに伝えたところによると、今回上映された記録映画は、同国内で2012年5月頃に短期間、上映されたことのある「偉大な先軍朝鮮のお母様」を再編集したものと見られるという。
2012年版の映画は夫である金正日総書記を「同志」として支えた高容姫氏の姿に焦点を当てたもので、高氏が2002年6月の自身の50歳の誕生日に金正日氏を称える演説を行った際の肉声も収録。また、高氏が幼少期の金正恩氏といっしょに、勉強や植樹を行う様子を収めた写真も盛り込まれた。
今回上映された映画にもこれらと同様のシーンがあり、大阪出身の在日朝鮮人帰国者である高容姫氏の経歴や彼女の名前に言及せず、「朝鮮の母」などと呼んでいる部分も2012年版と一致する。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、今回の映画(約90分)では後半15分ほど李雪主氏が登場し、「今日においては尊敬する李雪主女史によって、チュチェ(主体)の革命偉業の代が強固に引き継がれている」との解説が加えられているという。
こうして説明を聞くと、今回の映画の主役は高容姫氏であり、李雪主氏は脇役であるような印象を受けるかもしれない。だが筆者は、必ずしもそうとは言えないと考える。
金正恩氏は最高指導者となって以降、大陸間弾道ミサイルの開発成功や米中ロとの首脳外交などを通じ、内外的にそれなりの権威を確立したと言える。敢えて今、自分の母親を礼賛する映画を上映する必要性が見当たらない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし今後、金正恩氏が自分の妻を含む女性幹部たちにいっそう重要な役割を与えるつもりならどうか。
もしかしたら金正恩氏は、男尊女卑の風潮の強い北朝鮮の権力者たちを「教育」する手始めとして、先代指導者の「最良の同志」である自分の母親を「教材」にするのが適切と考えたのではないだろうか。