金正恩政権の高官関与か「金塊58キロ密輸で処刑確実」

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北朝鮮において、金(ゴールド)は朝鮮労働党の重要な資金源となっているため、一般人の所有、売買は禁止されている。違反した場合は政治犯扱いされかねず、重罪を免れない。ましてや輸出などもってのほかだ。

その禁を破って、大量の金塊を持ち出そうとしていた一団が摘発されたが、そこに中央の幹部が関わっていたようなのだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が説明した、事件のあらましは次のようなものだ。

場所は両江道の恵山(ヘサン)。国境を流れる鴨緑江を挟んで中国と向かい合い、以前から密輸が多く行われてきたところだ。40代男性の密輸業者は、7月2日の夜、鴨緑江の河原で中国の業者と接触を試みた。北朝鮮側から懐中電灯を3回点滅させて中国側に合図を送ってから、密輸品をゴムボートに乗せて川に流して受け渡す手はずだった。

その場には、国境警備隊の副小隊長と中隊の保衛指導員(秘密警察)も同行していた。10万元(約149万円)もの巨額のワイロを受け取り、密輸に便宜を図っていたのだ。保衛指導員は荷物の中身が薬草の見本だと聞いていた。ところが、薬草にしては重すぎると不審に思い、荷をほどいて見たところ、中からマッチ箱ほどの大きさの純金の塊が数十個、重さにして58キロもの金が出てきた。

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保衛指導員はすぐさま保衛部に連絡しこう告げたという。

「他の品物なら(密輸を)やるところだが、愛国的良心から金塊は(中国に)渡せない」

駆けつけた保衛部の要員は、その場にいた全員を逮捕した。

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密輸されるはずだった金塊の量が非常に多いこともあり、平壌の国家保衛省に重大事案として報告された。また、恵山で検閲(監査)を行っていた朝鮮労働党組織指導部の指導小組が、中央党(朝鮮労働党中央委員会)に報告し、最終的には金正恩党委員長の耳にまで入ることとなった。

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これを受けて先月8日、次のような1号方針(金正恩氏の命令)が下された。

「人民の健康増進のために全党、全軍、全民皆が立ち上がり、平壌総合病院の建設に邁進し、必要な運営設備を購入したことで外貨資金も枯渇している状態で、金を横流しする行為が発生した。今回の事件を最後まで掘り起こし、関連した者どもをすべて摘発せよ」

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つまり、現場にいた容疑者3人は、品物を受け渡す役割をしたに過ぎないので、金の出どころと背後にいた者まですべて明らかにせよということだ。

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北朝鮮の鉱山の中には、トンジュ(金主、新興富裕層)や貿易会社からワイロを受け取って採掘権を譲渡し、操業させているところがある。トンジュや貿易会社は労働者を雇って採掘を行い、利益の一部を鉱山に上納する。鉱山は資金難を解消すると同時に、正常に操業できていると上部に報告する。

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保衛部(秘密警察)は、このような形で運営されている金鉱で採掘された金が密輸に回されたと判断すると同時に、密輸現場にトンジュや貿易会社が派遣した監視役がいたはずだと考え、密輸業者を詰問したが、口を開こうとしなかったという。

密輸に加担した国境警備隊の副小隊長は不名誉除隊、密輸を通報した保衛指導員は1階級降格か異動で済まされるかもしれないと見られている。一方で、密輸業者の処刑は確実視されているようだ。

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一方、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)もこの事件に言及している。RFAの取材に答えた恵山の司法機関の幹部は、現場で逮捕されたのは7人で、そのうちの何人かが、中央党の幹部の指図で行ったと自白したと述べている。この幹部は、バレることを恐れて一般の密輸業者を雇い、金塊の密輸を行おうとしたということだ。

また、金塊の入っていた箱からは、金以上に重要視される白金(プラチナ)が入っていたことがわかり、問題がさらに大きくなっているとも明らかにした。

捜査を担当する両江道保衛局は、当初積極的に進め、捜査対象とする金鉱を6ヶ所まで絞り込んでいた。ところがそのうち後ろ向きになり、捜査に関わった職員にかん口令を敷くなど敏感な反応を見せている。

実は、6ヶ所の金鉱の中には、中央党、国家保衛省、人民武力省系列の貿易会社が運営するものも含まれていたのだが、捜査が進むと自分たちのクビが危なくなると感じた高官がいたためか、中央党と国家保衛省から圧力がかかったのだという。

密輸業者は、やはり処刑される可能性が高いと見られており、自ら命を断つ懸念があるため、さるぐつわを噛ませて、鉄格子越しに手錠をかけられた状態で勾留されているという。中央の幹部に累が及ぶことのないよう、何も語れないまま闇に葬り去られてしまうのかもしれない。

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