中国との国境地帯に駐屯する北朝鮮軍の国境警備隊で新型コロナウイルスの感染がまん延し、一部の部隊は壊滅状態に陥っているという。
中国・丹東を拠点とするデイリーNKジャパンのカン・ナレ記者の取材によれば、感染拡大の舞台となっているのは、両江道(リャンガンド)の道庁所在地、恵山(ヘサン)から鴨緑江沿いに金正淑(キムジョンスク)郡までの国境を守っている、第25国境警備旅団第1連隊だ。川向うは中国・吉林省の長白朝鮮族自治県である。
現地情報筋がカン記者に伝えたところでは、特にひどいのが同連隊の第5中隊だ。
「感染が広がるきっかけとなった第5中隊には指揮官と兵士合わせて32人が配属されているが、高熱と咳の症状が現れている者が20人に達し、ほぼ壊滅状態となった」(情報筋)
上層部による食糧横流しなどで飢えに苦しむ北朝鮮軍でも、密輸などを見逃してワイロを稼ぐことができる国境警備隊は比較的、栄養状態が良いとされる。ただそれも、北朝鮮軍内部ではの話だ。
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感染が始まったのは先月の中旬から20日頃にかけてと見られる。同中隊の士官長(下士官の中で最上級の階級)が、ひどい頭痛、咳、喀血の症状で、金正淑郡人民病院に緊急搬送された。
しばらくして、その後、感染はほかの中隊にまで広がり、今月11日の時点で連隊は勤務組織の編成すらできない状態に陥った。北朝鮮当局は集団感染を起こした第1連隊のみならず、第25旅団全体に隔離命令を下した。しかし、国境警備を行う補充人員を確保できず、勤務を継続させる措置を取ったと情報筋は伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面このような杜撰な対応が、状況をいっそう悪くしているのは明らかだ。北朝鮮軍のデイリーNK内部情報筋が伝えたところによると、軍医局は3月3日、1~2月に180人が死亡し、3700人を隔離しているとの情報を最高司令部に報告している。
死者は両江道のほか、やはり中国と国境を接する平安北道(ピョンアンブクト)、慈江道(チャガンド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に駐屯する国境警備隊で集中的に発生したというから、第25旅団と同様の現象が起きていたのかもしれない。
一方、国際社会では今週、米CNNの報道をきっかけにした金正恩党委員長の「重体説」に注目が集まったが、トランプ米大統領はこれについて「不正確だ」と述べた。しかし、11日を最後に金正恩氏の動静が途絶えているのも事実だ。最高指導者が「不在」の間、その足元では深刻な混乱が広がりつつあるのかもしれない。