北朝鮮国営の朝鮮中央通信は26日、金正恩党委員長が25日、平壌で旧正月の記念公演を鑑賞したことを報じた記事の中で、叔母の金慶喜(キム・ギョンヒ)氏が同席したと伝えた。
金慶喜氏は2013年12月に国家転覆陰謀罪で処刑された張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長(国防副委員長)の妻で、約6年ぶりに健在が確認された。
同通信は、金慶喜氏が金正恩氏の夫人・李雪主(リ・ソルチュ)氏と妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の間の席で公演を鑑賞する写真も公開。党機関紙の労働新聞も同様の記事と写真を掲載した。北朝鮮で独裁を敷いてきた「白頭の血統」の結束を内外にアピールした形と言える。
張成沢氏は生前、北朝鮮国内で隠然たる影響力を誇ったが、その権力の源泉が妻の血統にあったことは言うまでもない。同氏はさらに、優れた実務能力と如才なく気さくな人柄で多くの人々から慕われ、金正日氏の死後には金正恩体制を陰で操縦することになると見られたこともあった。
金慶喜氏と張成沢氏は、大恋愛の末にゴールインしたことで知られている。韓国の情報機関・国家情報院の次長や大統領補佐官を歴任した羅鍾一(ラ・ジョンイル)氏の著書『張成沢の道』は、張成沢氏の処刑を報告に訪れた金正恩氏に対し、金慶喜氏が拳銃の銃口を向けたというエピソードを紹介している。拳銃は即座に取り上げられ、大事には至らなかったというが、金正恩氏はほうほうの体で逃げ出したという。
トップ女優を処刑
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それにしてもなぜ、金慶喜氏は夫を救えなかったのだろうか。これについては諸説ある。例えば、脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表は、次のように語っている。
「もともと病苦の中にあった金慶喜氏は2013年初め、体調が著しく悪化していました。しかしそのとき、張成沢氏は一度も妻を見舞わず7人もの愛人と享楽にふけっていた。それが金慶喜氏にも報告され、彼女を激怒させたのです」
張成沢氏の女性関係に、行き過ぎた部分があったという情報は少なくない。彼が処刑された後、愛人だった元トップ女優が粛清されたとも言われる。
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金慶喜氏はこの頃、病と麻薬、アルコールによって心身を蝕まれ、もはや夫を窮地から救い出すだけの能力を持ち合わせていなかったとの話もある。
ちなみに、金慶喜氏は兄・金正日総書記が死亡した後の一時期、北朝鮮の政務と人事を一手に掌握する党組織指導部長に就いていたと見られている。党組織指導部長の地位はその後、金正恩氏の異母姉である金雪松(キム・ソルソン)氏が継ぎ、現在は崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長が占めている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして昨年末の朝鮮労働党中央委員会総会では、金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)氏が同部の第1副部長に就任したとの見方がある。事実ならいずれ、金与正が党組織指導部長に就任する可能性が高い。
このタイミングで金慶喜氏が姿を現したのは、金王朝の権力固めが重要な節目を迎えていることを示唆しているのかもしれない。