韓国統一省は20日、韓国国民の北朝鮮個別観光について、「国連制裁の対象に当たらず、われわれが独自に推進可能な事業」として、「制裁に当たらないため、『セカンダリー・ボイコット』も適用されない」と強調したという。「セカンダリー・ボイコット」とは、制裁対象の北朝鮮に利益を供与した第3国の企業と個人を対象にした米国独自の対北朝鮮制裁をいう。
現在、韓国国民は原則、北朝鮮への訪問が禁じられている。ただそれは、2010年の北朝鮮による哨戒艦「天安」撃沈事件を受けて実施している独自の制裁措置などによるものであり、国連制裁や米国の独自制裁で禁じられているわけではない。実際、日本や中国、オーストラリア、カナダなどの国民は現在も北朝鮮旅行が可能だ。
そして、南北対話の大きな進展を目指す文在寅政権は、個別訪問の実現の先に、南北協力事業として行われてきた金剛山観光の再開を見据えている。ただ、これについては北朝鮮側が冷淡である上に、韓国の国内事情の面でも、クリアすべきハードルは高い。
金剛山観光は韓国の現代グループが巨額の資金を投資して、ホテルなどの施設を建設、韓国からのツアーを2003年9月に開始したが、2008年7月に立入禁止区域内で韓国人女性の観光客が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士に射殺される事件が起こったことを受け、中断している。そしてこの事件はまだ、真相究明や補償などの「ケジメ」が付けられていないのだ。
それどころか、観光客を射殺した兵士は、北朝鮮で「英雄」として処遇されている可能性すらある。韓国紙・東亜日報の敏腕記者で、脱北者でもあるチュ・ソンハ氏は自身のブログで、韓国人女性を射殺したのは当時19歳の女性兵士だったという。19歳と言えば北朝鮮では成人だが、日本ではまだ「少女」として扱われる年だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面チュ・ソンハ氏によれば、軍当局は事件後、この兵士に勲章を授与。さらに、兵士はこの事件の経験について、軍内の各部隊を講演して回った。このような場合、軍当局は兵役期間が過ぎても兵士を除隊させず「模範」として昇進させ、今頃は大隊長クラスになっている可能性が高いという。
金剛山が位置する江原道(カンウォンド)の駐屯部隊に配属されるのは、特に貧しい農場員の家庭の子どもが多く、部隊の環境もきわめて劣悪だとされる。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そのような境遇の兵士たちにとって、韓国人観光客を無慈悲に射殺した同僚が「英雄」となっている状況はどのような教訓を与えるか。2008年7月と同じような場面に遭遇したとき、引き金を迷わず引く兵士が少なくないのではないだろうか。
このような懸念が払しょくされない限り、いくら文在寅政権が前のめりになろうとも、金剛山観光は簡単には再開されないだろう。