北朝鮮の朝鮮人民軍内部での女性に対する性暴力が横行する中、女性兵士の脱走事件が相次いでいる。今年2月、平安南道(ピョンアンナムド)の平原(ピョンウォン)に駐屯する教導旅団から3人の女性兵士が脱走したことは以前にも伝えた。
道内のデイリーNK内部情報筋によれば、道内では他にも、第3軍団の37ミリ高射砲部隊でも性暴力の問題で女性兵士の脱走が続出していると言う。
この問題に関しては、金正恩党委員長も女性たちの味方だ。今年3月8日の国際婦女節(国際女性デー)には、軍内部で蔓延する性暴力に対して厳正に対処せよとの指示を下した。それを受け、軍内では「反性暴力闘争」が行われている。女性兵士に対する言語的、身体的な性暴力の根絶を目的としたものだ。
指示では、女性兵士の待遇を改め、性暴力を根絶すると同時に、女性兵士に対しては「不当な上納要求、暴力に対しては信訴(訴え出る)を行う」ように求めている。ただ今までに、劇的な改善に至ったという情報はない。
(参考記事:ひとりで女性兵士30人を暴行した北朝鮮軍の中隊長)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ちなみに、北朝鮮の法律には性暴力に対して寛大だ。
2009年に改定された刑法では女性や未成年に性行為を強要した場合、最高で教化刑5年と定めていたが、2015年の改正で1年に引き下げられた。
北朝鮮は2017年、国連の女性差別撤廃委員会に提出した報告書で「女性が便宜(の提供)を予想して行っている」ことを理由に量刑を引き下げたと、女性への性暴力を合意に基づくものと言わんばかりの説明を行っている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面実際には、被害者が不利益を受けるような男性本位の風潮が女性を委縮させ、告発をためらわせているのだ。北朝鮮では、性暴力の被害に遭った女性がむしろ責められることが多い。つまり「行動や言動に問題があった」「女性から誘ったに違いない」「女は嫁に行けば済むが、男には養うべき家庭がある」などの言葉で女性被害者を追い詰めるという、2次加害・被害が起きているのだ。
そもそも前述の報告自体が、そのひとつの表れとも言える。
しかし、北朝鮮社会の変化とともに、女性の地位や意識にも変化が起きている。冒頭で触れた脱走事件では、逮捕され取り調べを受けた3人は、その理由について「男性の上官の性暴力」が原因だったと陳述した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面従来、多くの女性は2次被害を恐れ、被害を告発するよりは隠そうとするのが一般的だった。本人が暴露しようとしても、家族が止めるケースもあった。
ところが、件の脱走事件では違った。女性は被害に遭った事実を語ったのだ。自主的に明らかにしたのか、取り調べ過程での拷問などに耐えかねてのものなのかは定かでないが、被害者が沈黙せず、「脱走と証言」に動いたことに、軍の幹部らは少なからず衝撃が受けているもようだという。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)