北朝鮮国営の朝鮮中央通信は5日、「女性の権利が無残に踏みにじられる資本主義社会」と題した論評を配信した。11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」から始まった、世界各地での女性の権利擁護運動などに言及したものだ。
かねてから女性に対する性暴力の蔓延が非難されている北朝鮮が、国際社会に「反撃」したものと言える。
(参考記事:「警察官たちは性犯罪の捜査を楽しんでいる」北朝鮮の救われぬ実態)論評は、日本で起きた財務事務次官による民放テレビ女性記者に対するセクハラ問題にも言及。問題を受けて行われた女性記者たちへのアンケートで、「大多数がセクハラを受けていたと怒りを表した」などとしながら、「これらの事実は、資本主義制度こそ女性の人格と権利が容赦なく踏みつけられる腐って病んだ社会であるということを如実に見せつけている」と述べている。
論評が指摘するとおり、資本主義社会に女性に対する暴力の深刻な問題があることは否定しない。その事実を指摘する権利は、北朝鮮にもある。しかしそれは、北朝鮮の国家が、自らを省みてこそ行使が許される権利だ。
国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が先月31日に発表した報告書「理由もなく夜に涙が出る 北朝鮮での性暴力の実情」は、金正恩党委員長が政権を継承した2011年以降に脱北した54人と、脱北した北朝鮮の元公務員8人を対象にしたインタビューを元に作成されたものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その中には、被害女性らの血のにじむような証言のほか、身近で起きた性犯罪の経過を知る第三者の証言などが数多く収められており、読むほどに「そこまで酷いのか」と愕然とさせられる。
(参考記事:「私たちは性的なおもちゃ」被害女性たちの血のにじむ証言を読む)これに対して北朝鮮メディアは、証言した被害女性らを冒とくする報道を繰り返している。北朝鮮がそういう行動に出るのはいつものことだから、ここで敢えて言及する意味があるのか、とも思えなくもない。
しかし、今回のような論評が出るたびに思うのは、北朝鮮で少しでも権力を握る男性たちは皆、本気で自分たちの国が「女性にとってマシな社会」だと思っているのではないか、性暴力の行使に無感覚になっているのではないか、ということだ。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
北朝鮮で女性に対する暴力がまん延するのは、当事者である女性たちが人権の概念も知らず、自分が人権侵害の被害者であるということに気づけないことも理由になっている。ということは、男性の側にも加害の意識がまったくないのではないか。
だとしたら、問題の改善のためには北朝鮮の外部からの働きかけが極めて重要だと言えるのだが、非核化を巡る朝米対話や南北対話に押される形で、北朝鮮の人権問題に対する追及は弱まっている。今月中旬には、国連総会で北朝鮮の人権侵害に対する非難決議が採択される見込みだ。それを機会に、北朝鮮の人権問題が再び見直されることを望む。