北朝鮮の道路事情は極めて劣悪だ。北部の両江道’(リャンガンド)では今年3月、交通事故が相次ぎ、1日で約300人が死亡する大惨事が起きた。
(参考記事:あっという間に300人が死亡…北朝鮮の交通事故が壮絶な理由)一般の道路はもちろん、外国人観光客が利用する高速道路ですら状態がかなり悪く、穴が空いている箇所を熟知しているドライバーでも、時々穴にはまってしまうほどだ。
「走り屋」として知られる金正恩党委員長も、交通事故を減らすよう再三にわたり指示を下している模様だが、劣悪な道路事情はなかなか改善されない。
そんな北朝鮮の道路が、母親思いの家族の命を飲み込んだ。一家が乗っていた三輪バイクが崖から落ちたのだ。
事故が起きたのは11月初め、平安南道(ピョンアンナムド)平城(ピョンソン)と平壌市の順安(スナン)区域の間にある上次(サンチャ)峠でのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平城に住む一家12人は、母親の還暦祝いに参加すべく三輪バイクに乗って隣接する平原(ピョンウォン)に向かっていた。その途中で崖から転落。5人が即死し、7人が病院に搬送されたが、容態は芳しくないと伝えられている。ドライバーは転落直前に三輪バイクから飛び降り無事だった。
この三輪バイクだが、後部に荷台を連結したもので、中には木製の座席が設置されており、ぎゅうぎゅう詰めにすれば15人ほど乗車できる。タイの地方都市で走っている、ピックアップトラックを改造した「ソンテウ」というバスに近いものと思われる。トラックよりは安く買えるものの、下り坂でブレーキが効きにくいという欠点がある。
また、道路状態にも問題があった。中央分離帯がなく、舗装はアスファルトではなくセメントで、ところどころに穴が開くなど道路状況は劣悪だった。さらに、上次峠は事故多発区間として知られている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平城市の保安署(警察署)は、ドライバーから事故の経緯などについて事情を聞いている。北朝鮮は毎年5月と11月を交通事故防止特別月間に定めているが、そんな中での事故だった。交通事故の処理方針が強化されていることもあり、過失が認められればドライバーは裁判にかけられる可能性があるとのことだ。
劣悪な道路事情に加え、市場経済化の進展で車両が急増しているが、運転技術の未熟なドライバーが少なくない。
北朝鮮で運転免許を取得するには、自動車養成所(自動車学校)に通い、運転技術から修理技術までを習得し、試験に合格しなければならない。この過程が6ヶ月も要するので、多くの人は役人に500ドル(約5万6000円)ほどのワイロを払い、手っ取り早く免許を取得する。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。