金正恩氏が悩む「ヘンな病気」流行の原因は「危ない草」か

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北朝鮮の食糧事情は、かつてと比べ大きく改善した。貧富の格差が拡大する中で、市場で食べ物を買うための十分な現金収入を得られていない層は存在するが、数十万人が餓死した1990年代の「苦難の行軍」の時代のように、国内から食べ物が消えてしまう懸念は遠ざかった。

(参考記事:「牛乳風呂」をたのしむ北朝鮮の上流階級)

いま、金正恩党委員長が最も頭を悩ませているのは、崩壊した医療制度をどうやったら再構築できるか、という問題ではないだろうか。

北朝鮮では、国民なら誰でも無償で医療を受けられることになっているが、それは建前に過ぎない。実際は、診察、調剤、入院、手術、食事などありとあらゆる面で料金が徴収される。料金以外にもワイロが必要となる。また、病院に行ってもまともに薬がもらえないため、患者は自前で薬を調達する。少なくない国民の間では、覚せい剤が医薬品と混同されており、薬物汚染が拡大する一因にもなった。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

最近では、覚せい剤の害毒に気づき、薬草など漢方薬に頼る人が増えているようだが、そこにも問題はある。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

北朝鮮では、食糧事情が安定し市場経済化が進むにつれ、健康に関心を持つ人が増えた。それとは裏腹に「そこそこの暮らしができるようになったと思ったら、変な病気になってしまった」という言葉が流行しているという。

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前述したとおり、病院に行ってもまともに薬が処方されないため、「あれを飲んだら健康になった」という根拠不明の噂だけを信じて、関係のない薬や健康に有害な成分の入った薬を飲んでしまう人が後を絶たない。

例えば、クサノオウ(皮癬草、白屈菜)は強い鎮静作用を持つ薬草だが、副作用が強いため、素人が使うのは非常に危険と言われている。ところが、これが「皮膚病にいい」とのふれこみで売られているのだ。

また、アマドコロ多糖注射薬は、がんに効くとの噂が広まり、使う人が多いという。ちなみに国営の高麗薬輸出入会社は、この注射薬が湿疹、乾癬、ニキビなどの皮膚病に効くと宣伝、販売しているが、信用できるとは言いがたい。

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韓国の食品医薬品安全処(FDA)が2016年、北朝鮮製の漢方薬の成分を分析したところ、最高で基準の20万倍もの水銀など、各種重金属が発見された。

北朝鮮が「過去の栄光」である無償治療制度が崩壊したことを認め、新たな医療システムの構築に取り組まない限り、北朝鮮国民がまともな医療にアクセスできる日は来ないだろう。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記