27日午前、板門店(パンムンジョム)で南北首脳会談が開始された。板門店の南側を訪問した金正恩党委員長には妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長らが随行したが、午前の首脳会談が終わった時点で、まだファーストレディーの李雪主(リ・ソルチュ)氏は姿を見せておらず、この場に現れるかどうかもわからない。
しかし、北朝鮮当局が23日に各機関に配布した指示文には、金正恩党委員長の夫人、李雪主氏が27日に南北首脳会談が開催される板門店に同行する旨が記載されていたことがわかった。
これは北朝鮮の高級幹部がデイリーNKに明らかにしたものだ。指示文には「我が党と我が人民に偉大なる最高領導者金正恩同志が、尊敬する李雪主女史とともに軍事境界線板門店の南側地域(韓国)を訪問される前後、全世界の報道機関と派遣先の国の具体的な動向と動きを大使館に報告することについての緊急措置を秘密裏に行う」と書かれている。
つまり、訪問に直接触れたわけではないが、文書を読めば訪問することが明らかにわかるようになっている。また、文章からこの指示が北朝鮮国内だけではなく、国外にいる外交官などにも伝えられたことがうかがえる。
前々回2000年、前回2007年の南北首脳会談には、韓国の金大中大統領の李姫鎬夫人、盧武鉉大統領の権良淑夫人が同行したが、金正日総書記の3人目の夫人高ヨンヒ氏、4人目の夫人金玉(キム・オク)氏は姿を表さなかった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面高ヨンヒ氏は28年もの間、金正日氏と連れ添ったが、一度たりとも公式の場に現れたことはなかった。
また金玉氏は、金正日氏の中国、ロシア訪問に同行したが、公式の場には登場せず、北朝鮮メディアには言及すらされなかった。
その面、金正恩氏は父金正日氏とは大きく異る。2012年7月の綾羅(ルンラ)人民遊園地の完工式には李雪主夫人を同行させた。
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また、政権就任後初となる外国訪問の中朝首脳会談にも李雪主夫人を同行させ、習近平国家主席の夫人、彭麗媛氏に迎えられた。ファーストレディとして外交舞台にデビューを済ませた李雪主夫人が、南北首脳会談に登場しないことはないだろうということだ。
上述の高官は「世界的な注目が集まっているイベントに李雪主夫人を登場させ、より融和ムードを導き出そうとするもの」とし、2005年のアジア選手権大会に北朝鮮応援団の一員として韓国を訪問した経験があることを挙げ、「韓国人に反感を持たれにくいだろう」という判断もあるだろうと説明した。
また、金正恩氏にとって「父と異なり自分は開放的だ」というイメージを全世界に植え付ける格好のチャンスで、「普通の国として認められたがっている」「他国と同じことをして、イメージ作りを図ろうとするもの」と説明した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮メディアが「尊敬する李雪主女史」と、女史という呼称で報じたのも、「普通の国演出」の一環と思われる。
果たして、李雪主氏は姿を現すのだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。