平昌冬季五輪に合わせて訪韓し、江陵(カンヌン)とソウルで芸術公演を行った三池淵(サムジヨン)管弦楽団のメンバーが北朝鮮へ帰国し、金正恩党委員長と面会した。
朝鮮中央通信によれば、金正恩氏はそこで「文在寅大統領夫妻をはじめ南の同胞が公演を見て熱く答えて歓呼し、満足を表したのなら、自身もうれしい」と語ったという。わざわざ文在寅大統領の名前を出すほど、金正恩氏は手応えを感じたようだ。
三池淵管弦楽団は訪韓初日から、その華やかな衣装と柔らかな笑顔で五輪報道の「主役」の座を射止めた。メンバーの中には本来、青峰(チョンボン)楽団に所属するキム・ジュヒャン氏も見られたことから、三池淵管弦楽団が韓国公演のために特別に編成されたチームであることが明らかになった。
キム・ジュヒャン氏は、青峰楽団のなかでもひときわグラマラスな肉体を誇るシンガーだ。胸の谷間を強調したドレスでマイクを握ることも少なくない。
(参考記事: 【画像】グラマラスで目立つキム・ジュヒャン氏)今回も北朝鮮らしからぬセクシーさで韓国男性を魅了するイメージ戦略を取るかと思いきや、キム・ジュヒャン氏をはじめとする歌姫たちは驚愕のダンスで周囲の予想を大きく裏切った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面三池淵管弦楽団は公演で「走ろう未来へ」という曲を披露した。元々は金正恩氏の肝いりで結成されたモランボン楽団を代表する、明るくてポジティブなナンバーの一つだ。
この「走ろう未来へ」で、歌姫たちは赤いノースリーブの衣装にレザーのホットパンツ、そして白いスニーカーで日本の昭和時代にテレビで見られたスクール・メイツのような歌とダンスを披露する。
センターを務めたのは先述のキム・ジュヒャン氏で、魅惑的かつ激しいダンスを披露した。
(参考記事:【動画紹介】「走ろう未来へ」三池淵管弦楽団)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
キム・ジュヒャン氏をセンターとする歌姫たちの踊りは、モランボン楽団のバージョンよりも数段激しい。五輪に合わせた公演ということから、よりスポーティーで躍動的なイメージを演出したのかもしれない。一方、韓国側への「配慮」と思われるが、「走ろう未来へ」の歌詞の中の「労働党」という言葉を「この地の」に変えている。
三池淵管弦楽団は、かつて韓国を代表したガールズグループ「少女時代」のようなスレンダーな肉体と美脚ではなく、どちらかといえば、ふくよかで健康的な女性像を前面に打ち出したように見えるが、それがむしろ新鮮に見えたという韓国人男性の声も聞こえる。
そうでなくても、韓国人男性は純朴でミステリアスな雰囲気を醸し出す北朝鮮の女性たちに憧れをもっている。容姿端麗な北朝鮮美女に会うためにわざわざ東南アジアの北朝鮮レストランを訪れる男性もいる。制裁などの影響で今ではすっかり下火になった北朝鮮レストランだが、韓国人は上客として重宝されていた。
(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
時にはアッと驚かせ、時には配慮を見せる──金正恩氏が韓国へ仕掛けた「美女外交」の裏には実に巧妙な戦略が見え隠れする(つづく)。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。