北朝鮮の対話攻勢で「戦争の危機」は遠のいたのか

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北朝鮮は3日、来月9日に開幕する平昌冬季五輪への代表団参加問題を議論するため、金正恩氏の指示により、同日午後3時(日本時間3時半)から軍事境界線がある板門店の連絡ルート(チャネル)を再開した。北朝鮮は2016年2月、韓国の朴槿恵前政権が南北経済協力事業・開城工業団地の操業を全面中断したことに反発し、板門店の連絡ルートを遮断していた。

連絡ルートの再開は同日午後、対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長が朝鮮中央テレビに出演して発表した。金正恩党委員長の委任を受けて発表を行った李氏はその中で、「文在寅大統領」との呼称を用いていた。北朝鮮側がはこれまで、韓国の文在寅大統領のことを「南朝鮮の執権者」などと呼んでおり、名前と肩書に言及するのは初めてである。

北朝鮮は、金正恩氏が1日、施政方針演説「新年の辞」で南北関係の改善を打ち出したことを受けて、早くも対話攻勢に出てきた形と言える。

ただ、本欄でもすでに指摘したとおり、これは韓国に対する「ワナ」である可能性が高い。

(参考記事:金正恩氏の新年の辞「平昌に参加も」表明はワナである

とはいえ、韓国側が北朝鮮の動きを歓迎している現状では、当面は朝鮮半島情勢の緊張も緩和に向かうだろう。戦争の危険が遠のくことは、とりあえずは歓迎すべきことだ。

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もっとも、北朝鮮が核武装してしまった現状においては、米国といえども簡単には先制攻撃などできない。北朝鮮でも米国でも、具体的な戦争準備は行われていないと筆者は判断している。

しかしそれは、戦争の危機がまったくないのと同義ではない。いちばん怖いのは、突発事態が戦争に発展してしまうことだ。

昨年11月13日、北朝鮮兵士の亡命時に起きた銃撃事件は記憶に新しい。このとき、亡命した北朝鮮兵士は追っ手の銃撃を浴び、瀕死の重傷を負った。続いて今月21日に起きた兵士亡命に際しても、北朝鮮と韓国は交戦には至らなかったにせよ、双方が発砲する場面があった。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

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今後もこうしたことが続くと、不測の事態から緊張がエスカレートし、戦争の危機にまで発展する可能性がある。実際、2015年8月には北朝鮮側が自軍兵士の脱走防止用に仕掛けた地雷に韓国軍兵士が接触し、身体の一部を吹き飛ばされる重傷を負った。これがきっかけとなり、南北には「戦争前夜」の空気が漂ったのだ。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

このとき、板門店の連絡ルートは接続されていたのだ。それにもかかわらず、南北双方が情勢に流される形で戦争に近づいてしまった。幸い、対話によって危機は回避されたものの、こうしたことがいつ再発してもおかしくはないのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記