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北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は15日、トランプ米大統領に対し「死刑」に値すると非難する論評を掲載した。

論評は、トランプ氏が韓国国会での演説で、北朝鮮の体制を激しく批判したことに言及。「絶対に容認できないトランプの罪悪はまず、われわれの最高尊厳を悪辣に中傷冒とくしたことだ」と述べている。

ここで言う「最高尊厳」とは、言うまでもなく金正恩党委員長のことだ。トランプ氏は件の演説で、正恩氏のことを「残酷な独裁者」と呼んで非難していたのだ。

しかし、トランプ氏が韓国国会で演説したのは今月8日のことである。それから1週間も経ってこのような論評が出るのは、やや不自然だ。タイミング的にはやはり、この論評はトランプ氏が12日のツイートで正恩氏のことを「チビでデブ」と表現したことに対するものだろう。さすがに反論のためとはいえ、「うちの最高尊厳に向かって『チビでデブ』とは何だ!」と言うわけにはいかないから、このような表現になったと思われる。

ちなみに、この論評は個人の署名が入ったものだが、正恩氏本人の意を受けて掲載された可能性が高い。なぜなら正恩氏は、国内メディアを直接統括しているふしがあるからだ。

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だとすれば、正恩氏はトランプ氏に対してさぞや怒り狂ったことだろう。正恩氏は以前、米国により人権問題で制裁指定された際、周囲に猛烈に当たり散らし、側近たちが震え上ったと言われている。

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しかしそれにしても、最高尊厳をからかわれたことに対する「反撃」がこの程度のレベルとは、北朝鮮も情けない。トランプ氏のツイートは、「金正恩はなぜ私を『老いぼれ』と呼んで侮辱するのか。私は彼を『チビでデブ』だとは決して言わないのに。まあ、しょうがないから友達になれるよう頑張ってみるさ。いつかそんな日が来るかもな!」というものだった。正恩氏に歩み寄るふりをしながら世界に向けて「アイツはチビでデブだ」と言って見せる、なかなか巧妙なやり方だ。これに対し、北朝鮮は「お前なんか死んじゃえ」という程度のことしか言えていないわけだ。

そもそも、新聞の論評で「死刑」と脅されたくらいで、米国の大統領が怖がるはずもない。正恩氏は、仕事ぶりが気に入らないからと視察先の幹部を処刑し、その視察の際の動画を公開するような恐ろしい独裁者ではあるが、世界のスケールではかってみれば、しょせんは井の中の蛙ということなのだろうか。

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記