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以前、中国の雲南省のある田舎町が、緑化事業を行うと称して山を緑のペンキで塗り、世界的に「笑い話」として取り上げられたことがあった。一方の北朝鮮では、全人民が総出で「山に木を植えるふり」をしている。北朝鮮の社会システムが機能不全に陥っている状況を端的に示す「笑えない冗談」だ。

北朝鮮において緑化事業のきっかけとなったのは、2015年の「新年の辞」。この中で金正恩第1書記は「森林の回復戦闘を力強く繰り広げ、祖国の山々を緑の森に覆われた黄金山に転換させなければならない」と述べた。

住民は薪を得るために、あるいは山を開墾して食料を得るために、山の木を手当たり次第に切り倒した。そのせいで、保水力を失った山が大雨の度に崩れ、90年代末の大飢饉「苦難の行軍」へとつながった。金正恩氏は、農業復興や防災のために、緑化事業が喫緊の課題であると指摘したのだ。

しかし、社会のあらゆる分野で虚偽報告が常態化している北朝鮮では、山から引っこ抜いた木を別の山に植え替えたりする手法で、適当な数合わせが繰り返された。そのせいで、むしろ森林面積が減少してしまった

そもそもこの植林事業、日にちの設定から間違っている。

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咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局から「70日戦闘に合わせて木の苗を数十万本植えろ」との指示が出された。それに基づき、植樹が行われるのは、3月2日の「植樹節(みどりの日)」だ。

元々、植樹節は4月6日だったが、国家指導者のエピソードに基づき3月2日へと変更された。金日成氏は、金正淑夫人とまだ幼子だった金正日氏を連れて平壌の牡丹峰(モランボン)に登り、戦時中の松脂取りや軍需用で乱伐されハゲ山になった森を見下ろした。そして「山と野に木を植えることについて」という指示を出した。それが1946年の3月2日だった。

しかし、平壌と違い北部国境地帯の3月の平均気温はまだ氷点下だ。木の苗を植えるには、固く凍った地面を掘らざるを得ず、木が根を張るまでは徹底的な管理が必要だ。非常に不合理な日程なのだが、金日成氏のエピソードが絡んでいるため、異議を唱えると政治犯扱いされかねない。

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いざ木を植えようにも、土を掘る人も苗を管理する人も足りていない。それ以前に、苗木事業所や原林事業所もまともに機能しておらず、苗が供給されないため、植林に動員された人が市場で購入するハメとなる。

北朝鮮の住民たちもは、どうせ苗が育たないことがわかっているため、別の山から引っこ抜いてきた木を植えるのはもちろん、初めから根のない木を植えたりして、「成果を達成した」と報告する。もはや育つ育たない以前の問題だ。

忘れた頃にやってくる山林巡視員も、木についての知識がまるでない。植えられた木が育っているか確かめると言って、根元を掘り返してしまうのだ。これではせっかく育ちつつあった木も枯れてしまう。

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当局は、個人耕作地にも木を植えさせるが、土地の持ち主が農業の邪魔になるからと抜いてしまう。さらに、薪用に木を切り倒す人も後を絶たない。上部に「100本植えた」という報告が上がっても、実際に育つのはそのうち数本に過ぎない有様だ。

北朝鮮で30年以上植林事業に携わっていた脱北者は「食糧と暖房の問題が解決しないかぎりは、いくら木を植えたところで同じことの繰り返しだ」と指摘した。

北朝鮮の北部国境地帯に住む農民たちは、燃料として薪を使っている。コメを炊くにも、暖房をするにも薪が欠かせないので、木を切り倒す。さらに国からの食料配給が全くないので、トウモロコシを植えるために、木を切り倒す。

遅々として進まない緑化事業に対して、韓国の民間団体が支援を行っている。しかし、何の結果も生み出していない。

朴槿恵大統領は2014年3月、「山林の荒廃で苦痛を受けている北朝鮮に農業、畜産、山林を共に開発する『複合農村団地』を造成する」との構想を明らかにした。それに合わせて、韓国の多くのNGOが北朝鮮での植林運動を行った。

ある韓国のキリスト教系の団体は、2026年までに北朝鮮に1億本の木を植えることを目標に、植林作業を行っている。木は軍事転用される可能性も少ないため、北朝鮮支援用の手頃なアイテムだからだ。

しかし、前述の情報筋は「植えられた木は、幹部の家のかまどの煙になって消えているだろう」と指摘した。韓国から来た木は「一級品」扱いされるので、幹部の格好の餌食になってしまうのだ。破綻した社会システムに加えて、南北関係の悪化により、韓国のNGOの支援からの支援が中断している現状からすると、北朝鮮に緑あふれる山が戻るのは、もしかすると南北統一よりも後になるかもしれない。