北朝鮮の覚せい剤事情

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本欄の前回記事でも伝えたとおり、米紙ワシントン・ポストが今月17日付に、脱北者のインタビュー特集を掲載している。東京支局のアンナ・ファイフィールド支局長が6カ月をかけ、韓国とタイで取材を重ねたもので、幼稚園児から学生、労働者、母親、医師、薬物密売人など、様々な年齢と職業の男女25人から聞き取りを行った意欲的な企画だ。

その中に、実にショッキングな証言が出てきた。2014年に脱北した薬物密売人が、次のように語っている。

「私の主な仕事は、オルム(氷=覚せい剤を表す符丁)を売ることだった。当時、会寧(フェリョン)市に住む成人の70~80%ぐらいはオルムをやっていたと思う。私の客は、ごく普通の人々だった。警察官、保衛員、朝鮮労働党員、教師、医師たち。オルムは誕生日のパーティーや高校の卒業祝いのための、非常に良い贈り物だった」

北朝鮮で覚せい剤などの薬物が蔓延していることは、すでに広く知られている。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

しかし、どれくらい多くの人々が乱用しているか、その数的な規模が言及されることはほとんどなかった。

覚せい剤は北朝鮮の男女の関係にも大きな助け

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上記のとおり、この密売人は会寧市の成人の8割にもなる人々が覚せい剤を使用していたと語っている。会寧市の人口は13~15万人前後とされているから、その8割が成人だとすると、ひとつの市で8万人強~9万人強が覚せい剤を使用しているということになる。

また、この密売人が「高校の卒業祝い」に言及しているように、北朝鮮では未成年者による薬物乱用も深刻化している。つまりは上述した推計よりも、乱用者はもった多いかもしれないということだ。

(参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル

もちろん、これは一個人の「皮膚感覚」から出てきた数字であり、客観的なものではない。だが、これを「話半分」で捉えても、相当な数に上るのだ。

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また、この密売人は次のようにも言っている。

「(覚せい剤は)気持ちよくしてくれて、ストレスを発散させてくれるし、男女の関係にも大きな助けになる」

日本においても、たとえば芸能人などが薬物乱用で摘発される際には、かなりの割合で「男女関係」が絡んでいる。そして、こうした分野に強いジャーナリストによれば、「男女間の快楽目的で薬物を使用する人ほど、使うのを止めるのは難しい」という。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち )

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金正恩体制は薬物の密売を重罪と定め、摘発強化で根絶を試みているようだが、果たして抜本的な対策はあるのか。北朝鮮が薬物で汚染され尽くすようなことになれば、それは必ず、日本など周辺国の安全保障にも影響する。我々は今から、そのことに警戒心を持っておくべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記