最大の理由は、女性が商売で忙しいからだ。背景には北朝鮮独特の社会事情がある。男性は、国営企業などの「正式な職場」に所属しているため、原則的に市場で商売ができない。しかし、月給はわずか5000北朝鮮ウォン(約75円)前後。コメ1キロが買えるかどうかだ。
こうした中、女性が市場で商売をして、一家を支えざるをえない。しかし、結婚、出産、育児となると、商売ができなくなる。つまり、生き残るためには、結婚や出産などしている暇がないのだ。さらに、「無償」のはずの教育にもカネがかかる。
北朝鮮当局も、晩婚化、少子化に対しては、様々な対策を打ち出している。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、当局は、市場の売台(ワゴン)を子どものいる女性を優先して割り当てるという出産奨励策を取っている。しかし、「売台が欲しさに子どもを生む人がどこにいる」(情報筋)というのが現実だ。
さらに、堕胎を厳しく取り締まっているが、それが、むしろ産婦人科医が個人宅に出向き内緒で堕胎手術を行うという、「ヤミ医者」稼業の温床を生み出している。
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金正恩第1書記が、本気で出産奨励策を取るのなら、まずは経済を安定させることが最優先だ。しかし、子供ではなく、「核とミサイルを産み出す」ことばかり考えている金正恩氏に、それを期待するのは無理なようだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。