“敵”より”自国経済”を壊滅させる、金正恩「幻の艦隊」の危うい船出

北朝鮮が新型駆逐艦「崔賢」号の就役を急ぐ一方、国内では深刻な燃料不足が住民生活を直撃している。軍事大国化を演出する金正恩総書記だが、その“幻の艦隊”は、敵より先に自国経済を沈めかねない。

朝鮮中央通信によれば、金総書記は7日、新型駆逐艦「崔賢」号を視察し、6月中の就役を命じた。北朝鮮メディアは「海軍武力強化」の象徴として大々的に宣伝しているが、その裏側では国家の燃料事情が危険水域に達している。

米専門メディアなどによると、北朝鮮国内のガソリン価格は最近、日本を上回る水準にまで高騰。地方では軽油不足が深刻化し、トラクターを動かせない農場が続出しているという。実際、北部農村では住民が人力で農地を耕しているとの情報も、デイリーNKの内部消息筋から伝えられている。

ある脱北官僚は「北朝鮮はもともと慢性的な燃料不足国家だが、最近は過去数年でも特に厳しい状況である可能性が高い」と指摘する。

問題は、艦隊建設が“燃料食い”の軍拡だという点だ。

駆逐艦は建造して終わりではない。航行訓練、レーダー運用、発電、整備、港湾維持まで莫大な燃料と資材を消費する。しかも金正恩氏は、「崔賢」号と同級、またそれ以上の大型艦を十数隻も建造する方針を示している。本当にそれほど大量の艦艇を揃えられるかも怪しいが、それらには長距離巡航ミサイルなどを搭載するとしており、本格運用には継続的な洋上訓練が不可欠になる。

だが、そこに最大の難問がある。「燃料不足で農民が人力耕作している国が、近代的な外洋艦隊を維持できるのか」という問題だ。

実際、産油国である旧ソ連や中国ですら、経済力不足で大型艦隊維持に苦しんだ歴史がある。まして制裁下の北朝鮮にとって、水上艦隊は“最も贅沢な兵器”と言える。

北朝鮮海軍は従来、小型潜水艦や高速艇など、低コストの沿岸戦力を重視してきた。しかし近年は、ロシアとの軍事接近を背景に、水上艦大型化へ明らかに舵を切っている。背景には、「核搭載巡航ミサイルの海上運用」や「戦略兵器国家」の演出があるとみられる。

(参考記事:【写真】「ひっくり返るしかない」金正恩”戦略原潜”の異形の姿

ただ、その代償は確実に国内へ跳ね返る。

北朝鮮では現在、食糧事情も悪化傾向にあり、農村部では一日一食に近い生活を強いられる住民もいるとされる。そこへ海軍のための重油確保の負担がのしかかれば、たたでさえ脆弱なエネルギー供給はますます細り、農業や輸送、工場稼働への打撃はさらに深刻化しかねない。

前出の脱北官僚は「金正恩政権は“見せる軍事力”を最優先している。実際に維持可能かどうかは二の次だ」と語る。

華々しく就役する「崔賢」号。しかし、その船出は“敵艦隊との戦い”ではなく、自国経済との消耗戦の始まりなのかもしれない。