北朝鮮が発表した改良型戦術弾道ミサイル「火星砲11ラ」型の試験発射(19日)は、単なる兵器性能の誇示にとどまらず、後継問題をにらんだ政治的演出の側面を色濃くにじませている。国営メディアが公開した写真には、金正恩総書記の娘、金ジュエ氏が発射を見守る様子が写り込んでおり、父娘の「同行」が常態化しつつある。

今回の試験では、複数の弾頭が広範囲に子弾を散布する、いわゆるクラスター弾型の戦闘部が用いられたとされる。クラスター弾は広域制圧能力を持つ一方、不発弾が長期間残存し民間人に被害を及ぼす恐れがあることから、国際社会では非人道的兵器との批判が根強い。実際、使用や保有を包括的に禁止するクラスター弾に関する条約も採択されている。

こうした兵器の試験にジュエ氏を帯同させる意図について、専門家の間では「単なる親子の同行以上の意味を持つ」との見方が広がる。すなわち、将来的な権力継承を見据え、軍事分野での「実績」を視覚的に積み上げることで、「軍事の天才」としての神話を段階的に構築しようとしている可能性だ。北朝鮮では指導者の正統性を裏付ける象徴的な業績が重視されるだけに、新兵器開発や発射実験は格好の素材となる。

もっとも、その素材がクラスター弾である点には、強い違和感も残る。(参考記事:【写真】普通の父娘関係なのか…波紋を呼ぶ金正恩と娘の異様な振る舞い

金正恩体制は近年、経済建設や観光開発を掲げ、「普通の国家」像を対外的に演出する場面も増えているが、非人道性が指摘される兵器の能力誇示を後継者演出に組み込む手法は、そうしたイメージ戦略と整合的とは言い難い。

ただし現実の安全保障環境を踏まえれば、単純な善悪の二分法では割り切れない側面もある。クラスター弾を禁止する国際条約には、米国や韓国など主要な軍事プレーヤーも加盟しておらず、広域制圧能力という軍事的有用性は依然として認識されている。朝鮮半島のように大規模な地上戦を想定する地域では、こうした兵器が「必然的な選択」とみなされる余地も残る。

それでもなお、ジュエ氏の「実績」として刻まれるのが、国際的に批判の強い兵器であることの意味は軽くない。後継者像の形成と軍事力誇示を一体化させる北朝鮮の手法は、体制の安定を内外に示す狙いを持ちながらも、その価値観の方向性について改めて問いを投げかけている。