北朝鮮のIT要員が偽造身分で海外企業への就職を図る事例が増加している。IT業界では、面接の場で北朝鮮体制への評価を問う“異例の検証法”が注目を集めている。

暗号資産分野で調査・発信活動を行う専門家T氏は今月6日、交流サイト(SNS)「X(旧ツイッター)」で、北朝鮮IT要員の疑いがある応募者を見分けるオンライン面接の映像を公開した。そこでは、応募者は技術的な質問には流暢に応答する一方、北朝鮮の最高指導者である金正恩総書記を「罵って」みるよう求められると動揺を隠せず、沈黙の末に面接を一方的に終了した。

このような、客観的な記録の残る状況下で最高指導者を罵ることのできる北朝鮮国民は、まず存在しない。しかし、それは身の安全のためであり、本心から拒絶しているわけではない。

時代をやや遡り、2021年12月22日のことだ。同日午前4時20分ごろ、平壌市内のあるマンションの外壁に、こんな落書きが見つかった。

「金正恩の犬野郎、人民がお前のせいで餓死している」

この「犬野郎」(ケーセッキ)という言葉は、朝鮮語のありふれた罵倒語であるが、神聖不可侵の存在である金正恩氏に対して使われたとなれば大変な政治的事件となる。

当局は事件現場を封鎖し、捜査よりも先に落書きを消す作業を行った。落書きが一般人に見られることそのものが、金正恩氏の権威失墜につながると考えられており、口コミで広がれば市中に不穏な空気が流れる結果を生むからだ。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

この落書きの犯人が捕まったとの情報はないが、2018年に発生した類似の事件では、犯人とされた軍作戦局上級参謀の大佐ら2人が、自動小銃で公開処刑され、家族は管理所(政治犯収容所)送りとなっている。

「たかが落書き」と言うことも出来るが、北朝鮮国民にとっては命がけの行為であり、それは当局に対しても、相当な緊張を強いるものなのだ。