北京―平壌間の国際列車に続き航空便の運航再開も伝えられる中、金正恩総書記が熱心に旗を振る「観光客誘致」もあって、北朝鮮と中国の人的往来が本格的に動き出す兆しが出ている。だが、この変化は中国に滞在する脱北者にとって歓迎すべき材料ではなく、むしろ「強制送還体制の復活」を意味するものとして受け止められ、不安が急速に広がっている。
デイリーNKの中国現地消息筋は7日、「中国で暮らす脱北者の間で最近、『中朝関係が以前より良くなっている』とのうわさが広がり、強制送還に対する不安と恐怖が再び強まっている」と明らかにした。消息筋によると、中国国内ではこのところ、中朝関係の回復に対する期待を込めた見方が各地で出ている。両国関係が従来の水準まで戻れば、人の移動や往来は一段と活発になり、物的交流も急速に拡大する可能性があるとの観測が出ているという。
しかし、こうした流れを中国内の脱北者は複雑な思いで見つめている。関係改善に伴って、かつてのような迅速な送還が再び常態化するのではないかとの懸念が強いためだ。実際、脱北者の間では「両国間の往来が円滑になるほど、送還の危険も高まる」との認識が広がっている。
消息筋は「いま脱北者たちが最も恐れているのは、送還が日常的に行われるようになることだ」とした上で、「これまでは実際に送還されるまで数カ月から1年程度かかる場合もあったが、今後は1カ月もかからず進むのではないかとの不安が大きい」と語った。
その背景には、コロナ禍以前の記憶が色濃く残っている。脱北者が中国公安に拘束された場合、1週間から10日程度の拘禁を経て北朝鮮に送還されるケースが一般的だったという。拘禁期間が比較的長ければ、家族が公安に接触したり、費用を工面して送還回避を試みたりする余地もあった。だが、拘禁期間が短縮され、送還手続きが一気に進めば、そうした対応そのものが難しくなり、事実上、逃れる道がなくなるとの見方が出ている。
吉林省に住む脱北者のA氏は、「最近は中国人の間で北朝鮮旅行が可能になったという話が広がり、『行ってみたい』という人が多い」とした上で、「中には『あなたも行けるのではないか』と聞いてくる人もいて、やりきれない気持ちになる」と打ち明けた。
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A氏はさらに、「道が開いたとしても、自分は帰れない。その現実に耐えるだけでもつらいのに、そうした言葉を聞くたびに苦しくなる」と述べ、「両国関係の回復は誰かにとっては良いことかもしれないが、自分のような立場の人間にはかえって重い意味を持つ」とため息を漏らした。
別の脱北者B氏も、「先月、ほかの脱北者から『いつ拘束されるか分からないから一緒に韓国へ逃げよう』と誘われたが、過去に逮捕された経験があり、簡単には決断できなかった」と語る。「韓国行きを選べば、逮捕された時の記憶がよみがえって怖い。残れば残るで、中朝関係が良くなっているという話が不安をあおる」とし、「突然送還されるのではないかという思いが何度も頭をよぎり、最近はろくに食事もできず、眠ることもできない」と訴えた。
北朝鮮当局は脱北者が送還された場合、出稼ぎなど経済的な目的で中国へ出国しただけの場合と比べ、韓国への亡命を試みた人々をはるかに厳しく扱うことで知られている。
中朝関係の改善兆候は、中国内の脱北者にとって単なる外交環境の変化ではない。生存そのものに直結する切迫した脅威として受け止められている。制度的な保護を受けられず、不法滞在者として暮らさざるを得ない脱北者にとって、両国関係の修復はそのまま身の安全の悪化につながりかねないからだ。
消息筋は「中国にいる脱北者は不法滞在者と見なされており、中朝関係が強化されるほど、身辺の安全はより脅かされる可能性がある」と指摘した。その上で、「韓国行きを目指す人も、中国に残って暮らす人も、少しでも危険と不安の少ない環境で生きられるようになってほしい」と語った。
