北朝鮮の人権状況を巡り、エリザベス・サルモン国連北朝鮮人権特別報告者が3月6日に公表した第61回国連人権理事会向け報告書(未編集版を先行公開)が、国際社会で広く注目を集めている。報告書は「北朝鮮で公開処刑が再導入された」と指摘し、深刻な人権侵害の継続に強い懸念を示した。

北朝鮮が「再導入」した状況について詳細は伝わっていないが、同国では「金正恩思想」による一色化を目指し、社会統制がいっそう強化されているとされる。金正恩体制はそのうで、「見せしめ」的な処罰を多用してきた。

たとえば、2014年10月のある日の出来事である。

その日、平壌市南部にある力浦(リョクポ)区域の河川敷には、多数の住民が集まっていた。軍需物資を横領して逮捕された将校と、その妻である30代女性の公開処刑が予告されていたためだ。

2人は猿ぐつわを噛まされ、黒い布で目隠しされた状態で、杭に縛り付けられていた。軍の検察官と裁判官が判決を読み上げたのに続き、射手を務める兵士たちが位置に着いた。銃声が鳴り響き、刑が執行された。

ところが妻はしばらく後、病院のベッドの上で意識を取り戻した。軍当局者が妻に説明したところでは、夫の刑執行は予定通り行われたものの、現場に伝えられた緊急指令により、妻の刑執行は撤回されたのだという。

妻は当時、妊娠4カ月だった。それを知った金正恩氏が「母親の罪を新たに生まれる生命にまで問うのはわが党の人徳政治に反する」として、執行中止を命じたのだという。

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金正恩氏が、死刑執行の直前で中止命令を出したとされるエピソードは、ほかにもいくつかある。公開での刑執行が恐怖政治における究極の「残酷ショー」であることを知り抜いたうえで、それを自らの慈悲深さを演出するために利用しているのだ。

実際、金正恩氏が期待した通り、北朝鮮はこの話で国中が持ちきりになったという。

ちなみに、妻は犯した罪を完全に許されたわけではなかった。翌年に出産を終えるや、当局に再逮捕され、無期懲役を言い渡された。