北朝鮮北東部で、最高指導者の発言を誤って引用した幹部が講演中に当局に連行される事件があり、体制への忠誠を強いる思想統制が一段と強まっている実態が浮かび上がった。内部事情に詳しい消息筋が伝えた。
消息筋によると、事件は先月中旬、咸鏡北道の清津市で開かれた思想学習の講演会で発生した。道党幹部の一人が講師として登壇し、いわゆる「金正恩思想」の独自性を説明する過程で、誤って先々代指導者である故金日成主席の教示を混同して言及。講演終了直後、会場に待機していた保衛員によりその場で連行されたという。 (参考記事:真夜中に連れ去られた家族…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる)背景について、道党内部では「金正恩総書記の権威を損なう行為は地位に関係なく許されないことを示すため、見せしめとして公開の場で逮捕が行われた」との見方が出ているとされる。また、「かつては首領様(金日成氏)や将軍様(故金正日総書記)の名が文書の冒頭に並んだが、現在はあらゆる場面で元帥様(金正恩総書記)の名前が最優先される体制に変わった」との声もあるという。
この事件を契機に、幹部の間では講演や学習の冒頭で引用される金正恩氏の「指導の言葉」を一字一句誤らないよう神経を尖らせる空気が広がっている。家族や友人同士の会話でも不用意な発言を避ける傾向が強まっているとされる。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も”残酷な夜”)
さらに、こうした動きは一般住民にも波及している。住民の間では「先代指導者への敬意は慣習的なものだったが、今はそれが通用しない」「いまや元首様が何よりも優先される」といった声が、周囲の様子をうかがいながらささやかれているという。
消息筋は、「第9回党大会以降に打ち出された『金正恩思想』は、国内全域を巨大な思想的監獄へと変えつつある」と指摘。「生き延びるために自ら進んで思想を内面化せざるを得ない状況だ」と語った。
保衛機関による統制も強まっている。幹部の自宅にまで立ち入り、学習ノートの記述内容を細かく点検し、表現の誤りや解釈の曖昧さがあれば即座に連行するケースもあるという。清津市にとどまらず、会寧や穏城など各地で思想検閲や家宅捜索が日常的に行われており、今回の事件を受けて現地の緊張は一層高まっているとみられる。
