米政府系の放送局、ラジオ・フリー・アジアが20日までに北朝鮮の内部消息筋の話として伝えたところでは、同国では韓国との軍事境界線に近い最前線部隊への志願を高校卒業予定者に事実上強要する動きが広がっているという。

最前線部隊は山岳地帯に位置し、訓練の厳しさや生活環境の劣悪さで知られる。さらにもうひとつ、場合によっては命取りになる危険要素がある。韓国に逃れた脱北者の団体が風船にくくりつけて飛ばす、金正恩体制の様々な「ウソ」を暴露するビラを見てしまう可能性が高いのだ。

実際、開城付近の軍事境界線で軍の大隊長を勤めていた人物が、金正日氏の「真実」に触れたことで悲惨な最期を迎えてしまった例がある。

大隊長は除隊した直後に引き継ぎのため部隊を訪れた際、同僚にこんな話をした。

「除隊したからもう言っても構わないだろうが、以前、南から飛んできたビラを見たら、将軍様(故・金正日総書記)の故郷は白頭山ではなく、ロシアだと書かれていた。本名も金正日ではなくキム・ユーラだと書かれていた。われわれは歴史をきちんと学んでいなかったようだ」

さらには、金正恩総書記が異母兄の金正男氏を暗殺したことなど、ビラに書かれていたことを伝えてしまった。

(参考記事:【写真】水着美女の「悩殺写真」も…金正恩氏を悩ませた対北ビラの効き目

金氏一家を批判することは、北朝鮮では最もしてはいけない行為の一つで、殺人より重い罪に問われる。よほど気心の知れた相手や家族でなければ、そんな話はしないだろう。

とりわけ近年は、金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)党総務部長が、ビラが飛んでくるたびに韓国を激しく非難する談話を出している。大隊長は、よほど空気が読めなかったのだろうか。

話を聞かされた同僚が密告したのか、このことは保衛指導員(秘密警察)を通じて軍保衛局に報告された。保衛局は、予審(起訴前の取り調べ)なしに即刻銃殺せよとの命令を下した。大隊長は翌日銃殺された。

近代刑法では、行為者の行為によってのみ犯罪が成立するという原則があるが、北朝鮮では行為者のみならずその家族、親戚まで罪に問われる連座制が適用される。この事例では、妻と子どもたちは国家保衛省(秘密警察)管轄の管理所に、妻の弟やその家族は社会安全省(警察庁、旧称人民保安省)管轄の管理所に連行された。管理所とは政治犯収容所のことだ。

通常、このような場合に当局は、配偶者に離婚する選択肢を与える。離婚することで容疑者との関係がなくなり、処分を免れるからだ。ところが、今回はその意思確認もないままに、家族全員が収容所送りにされてしまった。神聖不可侵なる最高指導者に関する案件であるだけ、当局は敏感に反応したのだろうというのが情報筋の見立てだ。