北朝鮮がロシアへの派兵で死亡した兵士の遺族に対し、平壌の高級住宅を提供する際、異例となる朝鮮労働党中央委員会名義の入居証を発給していたことが分かった。遺族を対象とした特別な優遇措置であり、体制への忠誠を象徴する存在として位置付ける狙いがあるとみられる。
朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は20日付紙面に、「偉大な愛と義理の世界が広げた激情の海」と題した記事を掲載。平壌・和盛地区の新興住宅地「セッピョル(새별)通り」に入居した派兵軍遺族の生活実態を伝えた。報道によれば、同地区の住宅に入居した遺族には、通常の住宅配分とは異なり、党中央委員会名義の入居証が発給された。北朝鮮では一般に、地域の人民委員会傘下の住宅管理部門が入居証を発行するが、党中央名義が用いられるのは極めて異例とされる。
北朝鮮当局は最近、このセッピョル通りを整備し、各地に分散していた派兵軍遺族を平壌へ集団移住させる形で住宅支援を進めている。住宅は家具や家電など生活必需品が備え付けられた状態で提供されているとされ、遺族を「忠誠の象徴」として前面に押し出す政治的意図がうかがえる。
記事では、派兵兵士の個別のエピソードも紹介された。ある兵士は入隊後約10年間、一度も休暇を取得できず、家族に写真すら送ることができなかったという。
(参考記事:「ロシアに裏切られた」北朝鮮国民が悲鳴…食糧難で”経済崩壊の予兆”)
セッピョル通りに入居した遺族の一人は、戦死した息子から「祖国の息子らしく戦ったと母に伝えてほしい」との言葉を最後に聞いたとされる。自宅に残る写真は、入隊時に撮影されたものと、死後に届けられた肖像写真のわずか2枚のみだった。
母親は生前、何度も写真を送るよう求めていたが、息子からは「功績を立ててから堂々と送る」との返答が繰り返されたという。最終的に息子の姿を確認したのは、死後に開かれた国家表彰行事の場だったとされ、過酷な軍務の実態を示唆している。
こうした事例について、北朝鮮が海外軍事作戦の参加者と遺族を積極的に宣伝しつつ、その犠牲を強調することで内部結束を図っているものと見られる。
また、金正恩総書記の強い関与も指摘される。総書記は今月14日、セッピョル通りの遺族居住区域を訪れ、娘の金ジュエ氏とともに植樹を行ったほか、1月には派兵軍の追悼記念館建設現場も視察した。現地では自らフォークリフトを操作して樹木を運ぶ様子も公開され、妻の李雪主氏や妹の金与正氏ら家族を伴う演出も目立っている。
一連の動きは、対外軍事関与の正当化と国内統治の安定化を狙い、戦死者とその遺族を体制宣伝の中核に据える北朝鮮の思惑を浮き彫りにしている。
