イラン警察のラダン長官は15日、米国とイスラエルに攻撃目標の情報を提供したり、攻撃現場の写真をSNSに投稿したりしたとして約500人を逮捕したと発表した。だが、この数字をそのまま「大規模な内通網の摘発」と受け取るのは早計だ。実態を検証すると、イランが抱える諜報戦上の脆弱性が浮かび上がる。

当局発表によれば、摘発対象には意図的な情報提供者だけでなく、被害状況を撮影・投稿した一般市民も含まれる可能性が高い。戦時下における情報統制の一環として、行為の幅広い解釈が適用されているとみられる。つまり「500人」という数字は、スパイ摘発と統制強化の双方の意味合いを持つ。

それでも、内部からの情報流出が現実に発生していることは否定できない。2月28日以降の対イラン攻撃では、指導部や軍事拠点が高い精度で標的となった。こうした作戦を可能にするには、外部からの監視だけでなく、内部に近い位置からの人的情報が不可欠とされる。

長年にわたり対イラン工作を展開してきたモサドは、広範な市民協力ではなく、軍や治安機関、関連インフラに接点を持つ人物を中心に、限定的かつ精密なネットワークを構築してきたとみられる。過去の核文書奪取や要人暗殺などの事例でも、内部情報の存在が成功の前提となっていた。

問題は、なぜこうした浸透を許してしまうのかという点だ。背景には、イラン特有の権力構造がある。政府機構とイスラム革命防衛隊が並立する体制は、情報の分断や組織間の不信を生みやすい。責任の所在が曖昧になることで、防諜の隙間が生じる。

(参考記事:斬首作戦支えた対イラン浸透網…体制中枢に迫るモサドの影

さらに、経済制裁の長期化も影を落とす。通貨価値の下落や生活環境の悪化は、体制内部に不満を蓄積させる要因となる。外貨や安全な脱出経路と引き換えに情報を提供する動機が生まれやすい状況にあると指摘される。

一方で、当局は監視と摘発を強化しているが、これが逆に組織内部の信頼低下を招いている側面もある。密告の奨励や頻繁な拘束は、虚偽通報の増加や現場の萎縮を引き起こし、結果として本来検知すべき脅威を見逃すリスクを高める。

今回の「500人逮捕」は、こうした構造的問題の表れとみることができる。すなわち、完全に統制された国家というイメージの裏側で、情報の流出を完全には防ぎきれない現実があるということだ。

米情報当局は現時点で体制崩壊の兆候はないと分析しているが、指導部の所在が外部に把握され得るという事実は、安全保障上の重大な意味を持つ。戦争の様相が変化する中で、勝敗を分けるのは兵力だけでなく、いかに内部情報を守り、あるいは獲得するかにかかっている。イランにとっての課題は、まさにその一点に集約されている。