北朝鮮の実力者である 金与正氏が再び、対米・対韓メッセージの前面に立った。朝鮮中央通信が10日に伝えた談話で、米韓合同軍事演習を激しく非難し、「圧倒的な攻撃力による抑止」を強調したのである。世界の視線が中東に向かう中でも、朝鮮半島情勢の緊張を改めて印象付ける動きとなった。

金与正氏は先月の朝鮮労働党第9回大会後、党総務部長に昇格したと伝えられ、党内の組織管理や内政分野に軸足を移す可能性も取りざたされていた。総務部は党の人事や機構運営を統括する中枢部門であり、そこに座ることは権力中枢への接近を意味するからだ。

しかし今回の談話は、彼女が依然として北朝鮮の「対外メッセンジャー」であり続ける可能性を強く示唆した。これまで金与正氏は、韓国や米国に対する強硬な声明をたびたび発表し、北朝鮮指導部の意思を最も直接的な言葉で外部に伝える役割を担ってきた。今回の発言も、その延長線上にあるとみられる。

背景には、兄である最高指導者・金正恩総書記が党大会で示した対韓強硬路線がある。金正恩氏は韓国を「同族の概念から永遠に排除する」とまで言い切り、南北関係を根本的に再定義した。これは従来の「民族共助」路線からの大きな転換であり、今後の対韓政策はより対立的な色彩を強めるとみられる。

さらに国際情勢も、北朝鮮の強硬姿勢を後押ししている。米国は最近、イランに対する大規模攻撃に踏み切り、いわゆる「反米国家」への圧力を強めている。平壌の指導部にとっては、自国も同様の圧迫に直面し得るという危機認識を強める材料となる。こうした状況下では、対外的な警告のトーンが一段と強まるのは自然な流れともいえる。

(参考記事:金正恩に妹の与正が「命乞い」した権力中枢の”重大事件”

その役割を担う人物として、金与正氏の存在感はむしろ増している。彼女は党と軍、宣伝機関をまたぐ影響力を持つ数少ない幹部の一人であり、体制のメッセージを外部へ伝える「政治的スピーカー」として機能してきた。

もう一つ見逃せないのが、後継問題との関係だ。金正恩氏の娘であるジュエ氏を巡っては、将来的な後継候補としての位置付けが徐々に演出されているとの見方がある。もしその流れが続くなら、血縁であり政治経験も豊富な金与正氏は、後継体制を支えるキーパーソンとしての役割を担う可能性が高い。