計画経済の復活を目指す北朝鮮の金正恩総書記は、肥大化した市場の機能を縮小させ、国営商店にその役割を担わせようとしている。国の支配下にある国営企業に製造させた製品を、国営商店で販売し、モノとカネの流れを掌握しようという目論見があると思われる。

ただ、30年にわたって進展してきた市場経済化の流れが一気に無となるわけもない。むしろ、国営商店が「市場経済の砦」と化している。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた价川(ケチョン)市での事例を通じて見てみよう。

价川市商業部は昨年11月4日、市内の国営商店に対する検閲(監査)を実施した。その結果、複数の商店が、国営企業ではなく個人が製造した塩や塩辛を販売していることが明らかになり、摘発された。

上述の通り、国営商店では国営企業の製品や国の承認を得て輸入した商品だけを販売することになっている。しかし、それだけでは経営が立ち行かない。

「国は、国家の統制権の外で商品が流通することを防ぐために国営商店に民間商人との取引を禁じている。しかしそれでは運営が難しく、密かに商人と取り引きしている商店が多い」(情報筋)

市の商業部は、国営商店がこのような行為を行いながらも、自分たちに報告せずに利益を隠そうとしていたことを問題視した。そして、民間から仕入れた商品をすべてを没収する措置を取った。

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「商店は、市商業部の担当者とうまく話して商品の没収だけは免れようとしたが、翌日に价川地区単行連合企業所の後方部がやってきて、物資をすべてトラックに積んで行ってしまった」(情報筋)

国営商店は、国の運用原則に違反したため仕方がないと没収を受け入れた。そして商人に対しては、「今後も取り引きしたいのならば騒ぎ立てるな」と伝え、塩と塩辛の卸値を支払って、事態を収拾した。

その一方で、このような手法を使わなければ、国から与えられた販売ノルマを達成できないことを知りつつも没収を行った市の商業部に「ひどすぎる」と不満を漏らした。

没収された塩と塩辛は、炭鉱の労働者合宿所に持ち込まれた。当局は、炭鉱などのきつい職場で「嘆願」して働いている人々の生活を朝鮮労働党と行政機関が率先して保証せよと指示していた。国営商店は、市当局は最初から労働者の食べ物を調達するために、没収に踏み切ったのではないかと訝しんでいる。

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情報筋は、「国営商店とは名ばかりで、とっくの昔に個人商店になっている」と述べている。市の商業部に利益のいくらかを支払い、国営商店の名義を借りる行為は、非社会主義的だとして取り締まりの対象となっていたが、今でも行われているようだ。

ただでさえ毎月の利益の上納を強いられているのに、商品まで没収されてはたまったものではない。でも、店主たちはこの手法でしか生きていくすべがない。