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世界保健機関の2022年の集計によると、北朝鮮の結核罹患率は10万人あたり513人で、日本の9.5人、韓国の39人、中国の52人と比べて桁違いに多く、南部アフリカのレソトの661人、フィリピンの638人、中央アフリカの540人に次いで世界ワースト4位だ。

アフリカの多くの国がこの20年で罹患率が大幅に下がっているのに対して、北朝鮮を含めたアジア諸国は増加している。

首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)に駐屯する国境警備隊司令部の警備中隊では最近、結核患者が発生した。空気感染する感染症なので、病気になったのは本人の責任ではない。だが、当の本人は気に病み、悲しい結末を迎えてしまった。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

中隊は最近、痰や咳などの呼吸器疾患の症状を見せる患者が急増したことを受け、感染源の特定のために、中隊の隊員全員を対象にして検査を行った。

その結果、20代のA隊員が怪しいのではないかと目をつけた。

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A隊員は6年前から結核を患っていたが、それを隠して軍医所で処方された薬を飲んで治ったフリをし続けていた。国境警備隊や朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は、結核にかかった兵士を実家に戻し、一定期間療養させ、治ったら復帰させる。しかし、貧しい家の出のA隊員は、実家に戻ったところでまともな治療は受けられないと思い、部隊に入れば薬くらいはもらえると病気を隠し続けたのだ。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

その結果、中隊に感染を広げてしまった。多くの隊員が入院することになり、ある隊員は症状が重く、実家へと帰されてしまった。部隊はこれを深刻に受け止め、A隊員に鑑定除隊(依病除隊、病気によって軍を辞めさせられること)の処分を下した。

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それ以来、A隊員はふさぎ込むようになってしまった。貧しい実家に帰ってどうやって病気を治すのか、どんな商売をすれば生活が成り立つのか。そんなことをばかり考えるようになり、いつしか絶望の底に追いやられてしまった。そして先月末のある日、働きに出たトウモロコシ畑で、自らの手で短い生涯に幕を下ろした。

(参考記事:結核患者急増も病床が足りず隔離ができない北朝鮮

北朝鮮における兵士たちのライフコースは、除隊後に地元に戻って朝鮮労働党に入党し、地域の指導者的役割に就くというものだ。推薦をもらって大学に入学し、大規模な国営企業に勤めるケースもある。しかし、病気で部隊を辞めることになれば、そのいずれもが断たれてしまう。

かつては商売で身を起こすという手もあったのだが、昨今の計画経済への回帰策で、商売をしたところで大して儲からない。

(参考記事:「この国に生まれたことを後悔」自ら命を絶つ北朝鮮の人々

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もはや「人生積んだ」と感じて思い詰めた彼は、悲しい結末を迎えてしまった。北朝鮮が宣伝する「無償医療制度」が機能していたならば、彼もきちんを治療を受け、新たな人生の一歩を踏み出せたかも知れない。

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