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ロシア革命の翌年、1918年に西シベリアで生まれたパブリク・モロゾフ少年は、スターリン時代に、父親の犯罪を密告し死刑にまで追い込んだ。それ以降、彼は、村人の行動を次々に密告するようになったが、最期は親戚の手で殺害された。なお、実際はGPU(後のKGB)による犯行との説もある。

ソ連政府は彼を英雄視し、各地に銅像が立てられ、出身校の建物は記念館となり、多くの子どもたちが訪れるようになった。「反動分子であれば親とて無慈悲に叩き潰せ」というプロパガンダに利用されたのだ。

それから90年あまり経った2024年の北朝鮮では、逆に親が子どもを密告する事件が起きた。親族に殺されてはいないが、まるで自らの足で処刑台に登ったような様相を呈している。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

道内にある新陽(シニャン)輸出被服工場の会館で先月初旬、20代の女性従業員3人に対する思想闘争会議が開かれた。吊し上げ、人民裁判の類である。

司会を務めた新陽郡安全部長(警察署長)は、3人が夜間勤務を終えた後、昼休みを利用して山菜採りに行くふりをし、実際は韓国ドラマ、映画、ミュージックビデオを見て、歌って踊っていたと、罪状を明らかにした。

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そして、密輸入された電子機器で韓国の映像を見たことと、封印がされていない電子機器を使用したことは、重い反逆かつ反動行為だと非難した。北朝鮮で使われるテレビやラジオは、北朝鮮以外の放送を視聴できないように、チャンネルが封印されている。

部長は3人の「犯行」を通報した者にも言及したが、その名前が読み上げられるや、会場に衝撃が走った。3人のうちの1人の母親だったからだ。

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彼女は、娘が韓ドラを1カ月に3本以上見ていたこと、その翌日には3人でドラマの内容をおしゃべりしつつ丸一日を過ごしていたこと、夜間勤務を終えた後には、家族の目を避けつつ、3人でK-POPを聞いて踊っていたことなど、娘の犯行について詳細に告発したとのことだ。

部長は、母親の行動を激賛した。

「腐りきった資本主義文化に心酔し、知らぬ間に堕落していた自分の娘と友人を生き返らせようと努めた母親リさんの功労を酌量する。リさんの行動は、反動思想文化排撃法第26条に基づく、最も模範的な事例である。」

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同法第26条とは、次のようなものだ。

第26条(家庭教養と統制)
親は家庭教養と統制を強化し、子どもたちが不純な出版宣伝物を視聴、流布する行為をしないようにしなければならない。

なお、同法37条4項は子どもへの躾が至らず、反動思想文化犯罪を発生させた場合に、親に罰金刑を科すと定めている。これは、子どもが成人していても適用されるようだ。

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思想闘争会議に参加させられた工場の従業員からは、母親に対する非難の声が相次いだ。

「本当に愚かしい。誰もが韓ドラを見ていることなど公然の秘密なのに、なぜ通報したのか」
「(情状酌量されて)密告者の娘だけが減刑されるとすれば、他の2人はどれだけ悔しかろう」

一方で、母親を気遣う声も聞かれた。

「娘が韓ドラにハマっているのを見て恐ろしくなって密告したのだろう」
「年配の従業員たちは、娘を通報した母親の心中はいかばかりかと同情している」

3人に対する判決は下されていないが、少なくとも5年の労働強化刑(懲役刑)、見せしめとされるならばさらに重い刑罰になるかもしれないと情報筋は見ている。

娘にいかなる判決が下されようと、母親のこれからの人生はイバラの道となるだろう。

まず、北朝鮮の教化所(刑務所)で、服役者はまともな食事を与えられず、労働を強いられる。生き残るには、家族や親戚からの食べ物の差し入れ、看守や幹部へのワイロが欠かせない。

娘を売り払い、わざわざ苦労を買うような行動に走った、社会性が絶望的に欠如した人間など、誰にも信用されまい。

(参考記事:北朝鮮高校生に下された「遅行性の処刑」に母親ら失神

また、地域社会では、スパイや密告者と目された人は、徹底的に排除される。ちょっとした言動が死に繋がりかねない国で、密告をするような者、それもよりによって娘を密告するような母親と仲良くしようという者はまずいないだろう。同僚2人の家族、親戚から恨みを買ったことは、言うまでもない。さらには、自分の家族や親戚からも見放されるかもしれないのだ。