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北朝鮮の金正恩総書記が進める「地方発展20✕10政策」は、首都・平壌に偏りがちで地方住民の不満を招いていた投資を地方にも振り向け、地方経済を発展させるのが目的だ。

現在、20の市や郡で地方工業工場が建設中だが、その中の一つ、平安北道(ピョンアンブクト)の球場(クジャン)郡では、地域住民の反発を招いていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

この地域の主要産業は石炭採掘だ。地域一帯に広がる炭田で産出された石炭は、主に中国への輸出に回され、横流しされたものを燃料とする軽工業、野菜や果物の温室栽培も発展していた。

しかし、中国は大気汚染問題の解決のために、脱石炭を進めている。そこに追い打ちをけたのが、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議だった。北朝鮮の鉱物資源の輸出が禁じられ、販路を失った石炭は、採掘が低調になっていった。

球場の住民の収入は減り、生活苦に陥った。そんな時に彼らを救ったのは「ドングリ」だった。山でドングリを拾い、それで酒を作って売るのだ。

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「球場のドングリ酒は健康にいい」

そんな評判が徐々に広がり、人気は徐々に高まっていった。それを聞きつけたのが、地元の朝鮮労働党球場郡委員会だ。そして、工場を作ってそこでドングリ酒を大量生産する計画を立てたのだ。

しかし、地元住民からは不満の声が上がった。重い課題(ノルマ)に苦しめられるのは目に見えているからだ。

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「ドングリの旬になれば、各学校は生徒にドングリのノルマを課すのがこの地域では一般的だ。1年に30日から45日間、『ドングリ休み』で休校になるほど」(情報筋)

学校だけではない。郡内の工場、企業所、勤労団体、人民班(町内会)などすべての組織が仕事そっちのけでドングリ拾いをさせられるのだ。ただでさえ生活が苦しいのに、何の助けにもならない重労働をさせられるのだからたまったものではない。

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そんな「ドングリ地獄」だが、工場ができて大量生産が始まればさらにひどいことになるだろう。

さらに住民を苦しめるのは、こんな地域の事情だ。

「普段はドングリの半分に価格で売られているトウモロコシが、ドングリが実る季節になると高騰する」(情報筋)

なんとか食いつなぐための救荒植物であるトウモロコシの価格が高騰し、昨年はドングリとトウモロコシの価格がほぼ同じになった。

さらに気の毒なのは、ドングリ酒工場の予定地にあった家に住んでいた20世帯だ。当局は立ち退きを迫ったが、100ドル(約1万6100円)を渡しただけで、引越し先の家を用意していなかったのだ。

この地域の家は、いくら安くとも100ドル以上するという。しかし、当局は雀の涙ほどのカネを渡して「党の政策だ、つべこべ言わず出ていけ」と言うばかりだった。結局、住民は文句一つ言えないままで、立ち退きを強いられた。

情報筋は、彼らの行き先について触れていないが、おそらく勤め先の宿直室や倉庫などだろう。

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人民愛を強調する金正恩氏の政策のせいで、当の人民が苦しむのは、特に珍しいことではない。私有財産権、居住・移動の自由など基本的人権が認められていない国で、「人民のため」は、その逆の結果をもたらすのは当たり前のことなのだ。