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北朝鮮の平安南道(ピョンアンナムド)安州(アンジュ)市で先月末、妊娠9ヶ月の女性が病院から入院を断られ、胎児が死亡する事件が起きた。破水して市病院に担ぎ込まれたものの、入院費、手術費の一切を負担しなければ入院させないと言われたため、家族、隣近所の人々に加え、町内の医師まで総出で出産を手伝った。しかし、生まれた胎児が鳴き声を上げることはなかった。

北朝鮮は「医療は無償」を謳っている。首都・平壌の病院で高度な医療を受け、「病気になっても心配がない」などと語るプロパガンダは、国営メディアの十八番だ。それが本当ならば、胎児は死なずに済んだだろう。

旧共産圏からの援助に支えられていた北朝鮮の無償医療制度だが、援助が途絶えた1990年代に破綻をきたした。それに伴い、国からの予算が途絶えたため、診察、治療を受けたり、入院したりするには、医師や看護師へのワイロが欠かせなくなってしまった。

そもそも、一般的に社会主義諸国では医師の社会的地位が低いが、北朝鮮もその例外ではなく、月給は他の労働者と変わらない。最上級の1級医師でも5000北朝鮮ウォン(約75円)、駆け出しの6級医師ならその3分の1ほどだ。医師は生きていくために、患者からワイロを受け取ったり、自宅で私設のクリニック――つまりは「闇病院」を開いて患者を診て生活を成り立たせている。上述の安州市病院、平安南道病院の医師も例外ではないだろう。

それとて、決して安全なものではない。デイリーNK内部情報筋が伝えたのは、闇病院での医療行為のせいで、政治犯にされてしまうかもしれない医師夫婦の話だ。

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清津(チョンジン)市内の咸鏡北道(ハムギョンブクト)人民病院で、産婦人科医師として働いている女性は夫と共に自宅にクリニックを開設し、患者を受け入れていた。

妻は、浦港(ポハン)区域に住む女子中学生の妊娠中絶手術を行うことにし、午前中に薬を投与した後に、クリニックを出て人民病院に出勤した。退勤後に処置を行うつもりだったのだ。ところが、その間に激しい痛みを覚えた女子中学生がクリニックを飛び出し、悲鳴を上げて通行人に助けを求める騒ぎが起きてしまった。

夫婦が良い暮らしをしていることを妬んでいた一部の近隣住民は、これ幸いとばかりに、事件を安全部(警察署)に通報、朝鮮労働党の咸鏡北道委員会、清津市委員会にまで報告が上がる事態となった。

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(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

住民の間では「党と政府の政策に反する行為を行ったのだから、重い法的処罰を受けるだろう」と噂されている。反動分子扱いとなったため、管理所(政治犯収容所)送りになる可能性すらある。なぜか。

北朝鮮では、妊娠中絶のみならず避妊までもが禁じられているのだ。金正恩総書記が2015年に下した、深刻化する少子化対策として避妊手術と妊娠中絶手術を禁じるという指示に基づくもので、違反者は最高で3年の労働教化刑(懲役刑)に処されるのである。