牛は、世界の様々な国で、農耕用、運搬用など使役動物として扱われていた。日本でも、高度成長期に入って農業機械や自動車が普及するまではそうだった。途上国では今でも重要な財産として大切に扱われている。食用の牛肉が出回らないわけではないが、それらは働けなくなった牛や、輸入されたものだ。

北朝鮮では、牛は国家財産とされており、大切に扱うよう法で定められている。食べるなどはもってのほかだ。もっとも、特権層は専用の牧場で育てられた牛肉を食べており、一般庶民の間でも密売されているのだが、摘発されればただでは済まされない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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両江道(リャンガンド)の情報筋は、先月30日午後4時から、恵山(ヘサン)飛行場の周りの空き地で、公開処刑が行われたと伝えた。

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当日の朝、朝鮮労働党両江道委員会は「公開暴露の集い」――つまり公開裁判に関する緊急指示を出した。市場は休業して、工場、企業所の従業員、協同農場の農場員、人民班(町内会)の17歳から60歳までの住民すべてが参加せよとの内容だった。

そして、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)特別軍事裁判所の主催で公開裁判が行われた。被告人は男性7人、女性2人の計9人。彼らは、2017年から今年2月まで、2100頭もの国家所有の牛を売り払っていたというのだ。9人の中には、両江道獣医防疫所長、両江道商業管理所の販売員、農場の幹部、平壌の某レストランの責任者、保衛部(秘密警察)の10号哨所(検問所)で軍人として勤務していた大学生などがいた。

安全員(警察官)、保衛員(秘密警察)、軍人、政治学校(警察養成学校)の学生が3メートル間隔で立って警備に当たる中、杭に縛り付けられた9人は、射撃手によって一斉に銃殺された。その光景を、恵山市の人口の1割を超える、2万5000人が見守った。

現地の別の情報筋は、間近で見てしまったようで、「銃殺現場の恐ろしい場面が思い出され、夜になっても一睡もできず恐怖に震えた」と述べた。

今回の事件だが、主犯の商人らは、両江道や他の地方の工場、企業所、農場、軍部隊の副業地(農地)で飼育されていた牛を購入し、平壌市内のレストランなど全土に密売していたというものだ。ところが今年2月、主犯が平壌の入り口にある10号哨所で摘発されてしまったのだ。今までグルになっていた10号哨所に勤務する兵士が、兵役を終えていなくなり、事情を知らない新兵が配属されていたせいだ。

裁判官は、「牛は畑を耕し、農作業を行うのに、(それを密売して)国の穀物生産を阻害し、社会を混乱させる目的で牛を屠畜した」と、あらぬ罪までかぶせ、「この者どもは、わが国(北朝鮮)の天にも地にも葬るべきところのない大逆罪人で、三代を滅ぼしてもなお余りある」と、罵詈雑言を浴びせかけたという。