北朝鮮では、乳幼児を除くすべての国民が何らかの組織に所属することになっている。朝鮮労働党、国営企業、国の機関、軍、学校など様々な組織が存在するが、労働党員でない30歳以上の家頭女性(所属する機関を持たない既婚女性)が所属させられるのが朝鮮社会主義女性同盟、通称「女盟」だ。
この組織の女性に求められることは、旧態依然としたジェンダー観に基づいた「理想的な女性」像だ。それは、金正恩総書記が、2021年6月に行われた朝鮮社会主義女性同盟第7回大会の参加者に送った書簡によく現れている。以下、朝鮮中央通信が伝えた書簡の内容から一部を抜粋する。
女性同盟員と女性が社会の細胞である家庭を大切にし、幸せな家庭につくり上げるようにすべきです。
夫が党と革命に忠実であるように世話を焼き、子どもを社会主義朝鮮の頼もしい担い手に育て、睦まじい家庭をつくり上げる女性の役割は、なんぴとも取って代わることができません。
女性同盟員と女性は、たとえ家事で足りないものがあっても家庭の主婦として、嫁として、妻として、母としての責任を常に自覚し、舅や姑によく仕え、夫と子どもが国家と社会に対し担っている本分をまっとうするように真心を尽くすべきです。
全ての女性同盟員と全国の女性が優しい嫁、情の厚い妻、慈愛深い母親、人情味のある隣人と呼ばれるとき、われわれの社会はいつも生気と活力に溢れ、わが国家はさらなる力を持つようになるでしょう。
建国前の1946年7月に男女平等権法令を制定し、育児労働、家事労働の社会化という当時としては先進的な女性政策を進めた北朝鮮だが、この70年で世界に追いつかれ、追い越されてしまった。
女盟も、もはや女性を縛り付けるだけの組織になっている。週1回行われる生活総和(総括)に参加しなかったという理由だけで、女性たちを見せしめの強制労働に追いやっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
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慈江道(チャガンド)の情報筋は、梅雨真っ只中の7月に、女盟は「突撃隊」と呼ばれる半強制の建設部隊を動員して、川の堤防を築く工事をさせていると伝えた。体格の小さい女性たちが、カンカン照りの中で重い石を運ばされている光景は、とても見ていられないという。
彼女らは、作業に真面目に取り組まなかったり、遅刻が多かったり、病院の診断書なしに欠勤したりしたという理由で突撃隊として動員された。見せしめと懲罰目的の強制労働だ。遅刻はさておき、診断書がないのにはそれなりの理由がある。
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北朝鮮の無償医療はほぼ形骸化しており、診察を受けるには医師や看護師にワイロを渡さなければならない。もちろん、診断書発行もその例外ではない。また、医薬品も市場で購入することを求められる。いずれも、医療関係者たちが極度の薄給に苦しんでいることが背景にある。
こうした現実のため、病気になっても処罰を避けるために無理に出勤する女性も少なくないという。診断書を書いてもらうためのワイロを渡す余裕がないからだ。
(参考記事:北朝鮮が病院に対する実態調査「医師からのワイロ要求が常態化」)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
両江道(リャンガンド)の女盟関係者によると、女性同盟突撃隊は、2021年6月の朝鮮社会主義女性同盟第7回大会の直後に立ち上げられた。
これは、2014年2月から2017年2月まで女性同盟の中央委員会委員長を務めるも、規律違反問題でいったん解任され、同大会で返り咲いた金正順(キム・ジョンスン)氏が、金正恩氏の歓心を買うために、女盟員の勤労動員を強化した結果だとのことだ。また、金正順は同時に組織生活(組織のメンバーとしてやるべき義務)を強化した。
(参考記事:北朝鮮の現職市女性同盟委員長の自宅から覚せい剤15キロ発見)カネとコネのある女性は、何か問題が生じたとしてもワイロでもみ消してしまうが、貧しい女性にそんな余力はない。さらには家計を助けるための商売に時間が必要なため、組織生活に出られず、処罰を受けるはめになって商売の時間がなくなるといった「悪循環の罠」陥っているのだ。
(参考記事:「量刑はワイロで決まる」北朝鮮の常識)