北朝鮮では今、コメ増産のため国民を総動員する「田植え戦闘」が真っ盛りだ。各地の人民班（町内会）では、町内の女性を集めて農場に連れて行き、田植え作業に当たらせる。そんな女性たちの顔には笑顔がなく、あちこちにあざがある。夫によるドメスティックバイオレンス（DV）のせいだ。

平安南道（ピョンアンナムド）のデイリーNK内部情報筋は、現地で最近、DVが深刻な問題となっていると伝えた。

安州（アンジュ）市内ではDV被害に遭う女性が急増している。市内のある人民班では、16世帯が夫婦喧嘩で町内を騒がせた。人民班は通常、20世帯から40世帯で編成されているから、16世帯は驚くべき高率だ。

情報筋によると、どこの家でも同じような理由で夫婦喧嘩となり、妻が暴力を振るわれる。

夫は外出して、ツケで酒や煙草を買ってくる。妻に当たり前のように小遣いをせびる。ほとんど給料のもらえない国営企業や行政機関勤めの夫は、市場で商売している妻に経済的に依存しているのだが、それがおもしろくないようだ。

（参考記事：妻に優しくなった北朝鮮の夫たち…亭主関白の末路は「餓死の恐怖」）

家に訪ねてきた商人からツケの支払いを求められたことをきっかけに夫婦喧嘩となり、徐々に声が大きくなり、ついには手が出るという流れだ。

そこには、動員のプレッシャーも影響しているというのが、情報筋の見立てだ。

「最近はどの家でも夫が妻に手を出す。生活苦で生きていくのもやっとなのに、社会的動員には参加しなければならないため、すべてが苦しい。それなのに夫は何の役にも立たないばかりか、むしろあちこちでツケを作ってくる。それにカネの無心をされるから喧嘩になるのだ」（情報筋）

家族が食べるコメもないというのに、夫たちは酒やタバコを控えようとすらしない。女性たちは「この世でわが国（北朝鮮）の女性ほど価値がなく（価値を認められおらず）かわいそうな人々はいない」と嘆くばかりだという。

北朝鮮では少子化対策として、離婚が厳しく制限されている。そのため夫は特に心配していないのだろうが、もし家から追い出されたとしたら、待っているのは餓死だ。そうはさせまいと、妻を暴力で支配しようとするのだろう。