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李秀福(リ・スボク)――朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士として朝鮮戦争に参戦し、激戦地の1211高地で、敵軍トーチカの銃眼を胸で塞いで戦死、共和国英雄の称号を授与され、愛国烈士陵に埋葬された。彼は「最高の戦争英雄」、つまり日本の戦前の軍神のように持ち上げられて、プロパガンダの道具とされている。

そんな彼に対する好ましくない発言は、政治的な問題となり、運が悪ければ一生を棒に振ることになる。その一方で、軽い処罰で済まされるケースもあるようだ。そんな事例を、デイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:北朝鮮の「地の果て」に連れ出された、ある男性の悲惨な運命

事件が起きたのは先月のこと。長距離バスに乗っていた2人の栄誉軍人(傷痍軍人)が、酒に酔った末に、李秀福についてこんな発言をしたのだ。

「どうせ酔っ払ってグダグダになっているときに銃眼を塞いだんじゃないのか」

それを耳にした車掌や複数の乗客が当局に通報した。

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朝鮮労働党海州(ヘジュ)市委員会は、今月4日に開いた会議でこの2人について取り上げたが、海州市人民委員会(市役所)の法務部長が責任を持って遵法教養処理するという指示を下すにとどまった。

本来なら「マルパンドン」(反政府的言動)として、保衛部(秘密警察)が捜査を行い処罰を下してもおかしくない案件である。それなのになぜ寛大な処分で済まされたのだろうか。その背景には、彼らが本来受けるべき待遇を、当局が提供できていないことがある。

(参考記事:北朝鮮の課長が収容所送りになった「マルパンドン」という罪

元来、軍人として服務中に負傷し、障害を負った栄誉軍人に対しては、手厚い保護がなされていた。専用の職場をあてがわれ、年金を受け取り、何不自由なく暮らすことができた。

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ところが、1990年代の未曾有の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、福祉システムは崩壊。栄誉軍人は、他の北朝鮮国民と同様に、市場で商売して現金収入を得て生き抜くことを余儀なくされた。中には、半グレ集団を結成する者すらいた。

(参考記事:北朝鮮で「半グレ抗争」勃発…レンガやショベルで無慈悲に滅多打ち

そんな彼らに、さらなる追い打ちとなったのが、2020年からの極端なゼロコロナ政策だ。新型コロナウイルスの国内流入を防ぐとして、人のみならずモノの国外からの流入も止めてしまい、北朝鮮は苦難の行軍以来最悪とも言われる食糧危機に襲われている。

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すでに厳しい生活を強いられていた栄誉軍人は、さらに追い込まれてしまったのだ。中央は昨年、栄誉軍人、除隊軍官(退役将校)、戦争老兵(朝鮮戦争参戦者)を優遇せよとの指示を下したが、それもできていない。海州市当局は、彼らの間で国への不満が高まる中で、下手に厳罰を下せば、不満に油を注ぐ結果になりかねないと考えたのだろう。

(参考記事:北朝鮮の「栄誉軍人」国からの支援途絶えて餓死寸前

市当局は、今回の件は2人の栄誉軍人だけの思想的な問題ではないとして、市内の機関、企業所、団体に対して、栄誉軍人一人ひとりに対する政治思想、遵法思想の教養に力を入れることと、生活上の問題を解決するよう指示した。そのために、人民委員会の各部署から市内在住の栄誉軍人のリストを受け取り、各機関などに面倒を見るべき栄誉軍人の情報を伝達している。

「平和な時期の栄誉軍人は、戦時に敵の銃眼を塞いだ李秀福のように、党と祖国のために青春を捧げた英雄と同じだ。この機会に栄誉軍人担当制を実施し、彼らが不満を持たずに暮らせるように助けるべきだ」(市当局)