金正恩命令に静かに反抗する、北朝鮮の「ITエリート」たち

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2000年代以降、IT技術の発展に力を入れている北朝鮮。昨年5月には逓信省、電子工業省、国家情報化局を合わせた情報産業省を発足させ、この分野を集中的に育成する姿勢を見せている。

 その努力は、様々な形で成果を上げている。外国の製薬会社や仮想通貨交換所、金融機関にハッキングを仕掛けるサイバー攻撃部隊がその一つと言えよう。ただ、そうした能力の攻撃の矛先は、北朝鮮自身にも向けられる。

 北朝鮮で使われている携帯電話には、韓流コンテンツなど禁止されたものを再生できなくしたり、国の承認を得ていないSDカードを挿入すると自動的に初期化したりする監視ソフトがインストールされている。

 だが、これを迂回するソフトも存在し、その数は10種類に達すると、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。韓流の取り締まりは金正恩総書記の厳命によるものだが、それを骨抜きにするかのような行為が横行しているわけだ。

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 迂回ソフトの開発に当たっているのは、金日成総合大学、金策(キムチェク)工業総合大学、金正恩国防総合大学、平壌理科大学、平壌科学技術大学、龍城(リョンソン)弱電工業大学などの教育機関や、情報産業省傘下の研究所で働く若い人材だ。

「専門家養成、開発研究基地の若者たちが、当局のスマートフォン統制を迂回する専門技術を違法に開発し、商業化して金儲けの手段としている」(情報筋)

 デイリーNKは2020年12月、スマートフォンに保存された違法なコンテンツを、パスワードを入れなければ表示されないようにする「ビドゥルギ」(ハト)というソフトを紹介、「3次元体系」「迷宮」という同様のソフトも存在すると伝えたが、今では10種類に増えているという。

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 例えば、今年5月に開発された「カラクチ」(指輪)というソフト。情報筋は、具体的な仕組みについて言及していないが、「これさえあれば、様々な映像、音楽、画面、本、児童映画などに触れることができ、文化生活の領域が多様になる」と評価している。

 価格は60ドル(約8200円)と、かなり値が張るものの、大学生や研究者はもちろんのこと、これらを取り締まる立場の安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)、警務隊(憲兵隊)、朝鮮労働党のイルクン(幹部)が買い求めているという。

 当然のことながら、こうしたソフトに対しては取り締まりや対抗策が講じられている。スマートフォンの場合、OS(オペレーティングシステム)のアップデートが1〜3年ごとに行われ、一般的なソフトや監視ソフトは1年1回のアップデートだったのが、半年に1回に変更された。

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 それにより、既存の迂回ソフトが使えなくなったとしても、また別の誰かが開発するので、情報筋は「心配ない」としている。

「一度見たら二度見たくなる人間の衝動、若者の好奇心を党も国も法律も妨げることはできない」(情報筋)

 北朝鮮製のコンテンツは、多かれ少なかれ金氏一家を神格化する内容が含まれ、古臭く、退屈なものが多い。そんなものしか知らない人々が、韓国製のコンテンツを一度でも目にすると、中毒になってしまう。当局は、摘発した人を見せしめで処刑したりするものの、そこまでやっても、抑え込みには失敗している。