「燃料」奪い合いで農民が兵士を撲殺…悲惨すぎる北朝鮮軍の内情

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貧すれば鈍する。北朝鮮では1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころ、少量の穀物を盗んだだけで銃殺にされる人が相次いだ。そして、国際社会の制裁と相次ぐ自然災害、そしてコロナ鎖国の三重苦で苦難の行軍の再来が囁かれる2021年、20数年前同様に実に些細なことで命を落とす人がいる。

一体何が起きたのか、デイリーNKの軍内部の情報筋が詳細を伝えた。

事件が起きたのは、黄海北道(ファンヘブクト)瑞興(ソフン)郡にある朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の8.15訓練所の近隣にある協同農場だ。

訓練所の後方司令部線路分隊所属で中級兵士のシンさん(20歳)は今月9日、農場の青年分組の収穫が終わった畑に忍び込み、残っていたトウモロコシの根を掘り出していた。自らが属する区分隊の副業地(畑)で作業を行っていたが、どうしても足りずによその畑に足を伸ばしたのだった。

民間の財産に手を出せば厳しくとがめられるが、食糧や物資の不足にあえぐ北朝鮮軍では当たり前のことになっている。

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穀倉地帯として知られる黄海北道だが、山間部では稲作ができず、主な作物はトウモロコシだ。その根はこの地域に駐屯する軍の兵士にとって、寒い冬を乗り切るための暖房の燃料となるのだ。

朝鮮人民軍の各部隊は、今月15日から3月15日までの暖房用の燃料を確保するために、どこも石炭、薪集めに必死だ。訓練所当局は、部隊の食堂、軍官家族への薪の供給が不足し、兵舎や兵士の病室に設置された暖炉に入れる燃料はすべて自力更生しなければならないと強調。雪が降って濡れてしまう前に、トウモロコシの根を掘り出して乾燥させなければならないとの話もしているという。

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おりしも10月と11月は、軍の訓練準備と越冬準備期間で、訓練所の指示で、区分隊ごとに越冬準備にあたっていたが、シンさんもそれに動員されたのだった。ノルマは1人あたり麻袋10袋のトウモロコシの根。それを乾燥させた上で、差し出せという命令だった。

北朝鮮は地下資源の豊富さで知られ、中でも石炭の産出量は非常に多い。しかし、黄海北道の地下資源はウラン、モリブデン、金(ゴールド)が主で、石炭の産出量は少なく、薪やトウモロコシの根に頼らざるを得ないのだ。

朝鮮人民軍と言えば、弾道ミサイルや核兵器など派手な兵器のイメージも強いが末端の軍官(将校)、兵士の生活は、悲惨そのものだ。

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脇目も振らずにトウモロコシの根を掘り出していたシンさんだが、運悪く青年分組の若者3人に見つかってしまい、その場で殴り殺されてしまった。

3人は、平安南道(ピョンアンナムド)中等学院(孤児院)の出身で、今年の春に嘆願して瑞興の農場にやって来た。この地での初めての冬を迎え、自分たちも燃料として使うトウモロコシの根を盗まれまいと警備にあたっていたところだった。3人は安全部(警察署)に逮捕され、過失的殺人罪(傷害致死)容疑で取り調べを受けている。有罪判決を受ければ、最高で8年以下の労働教化刑(懲役刑)となる。

以前から軍と農民の関係は良好だったとは言えない。食糧すべてを協同農場で取れた作物に依存している軍だが、軍から言われたとおりに作物を差し出せば農民が困窮に追い込まれるため、食糧の供出を巡り毎年のようにトラブルが起きていた。

(参考記事:協同農場を「占領」した北朝鮮軍の危機的状況

そんな状況で起きた今回の事件。仲間を殺された訓練所の軍官と兵士は一様に激怒しているが、黄海北道安全局は「地元民ではなく、平安南道からやって来た嘆願者で前科もある」などと言い放ち、訓練所の人々を呆れさせているとのことだ。