ワイロ払えない妊婦が放置される北朝鮮医療の現状

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北朝鮮の対外向けプロパガンダサイト「朝鮮の今日」には、北朝鮮の誇る社会主義保険制度の紹介が、読者の投稿、記者の取材の形で数多く掲載されている。2019年5月22日付けの「ある栄誉軍人(傷痍軍人)の治療を通じて見た共和国(北朝鮮)の保険制度」という記事には、ある資本主義国に行った経験を持つイルクン(幹部)の話が紹介されている。以下、一部を抜粋する。

ある日、彼はその国の病院で、前日に膵臓手術を受けた患者が苦しそうに歩いて、退院の手続きをするのを見たという。手術を受けるだけでも多額の費用がかかり、入院費まで賄えない、仕方がないと言って泣きながら病院を後にした患者を見て、彼は祖国にいるときに国の恩恵で無償治療を受けた日々を思い起こし、わが国の社会主義保険制度がいかにありがたいかということを、改めて胸熱く感じたと語った。

そんな「ありがたい制度」の下で運営されている病院で、ひとりの妊婦が悲劇的な死を遂げた。それもワイロが払えずに治療を受けられなかったからだ。詳細をデイリーNK内部情報筋が伝えた。

30代の妊婦のヤンさんは先月中旬、妊娠中に何らかの病を患い、手術を受けなければならない状況となり、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)産院を訪れた。

ところが、入院するには50ドル(約5500円)、診療を受けるには担当医師に20ドル(約2200円)のワイロに加え、タバコ、酒、さらには昼食または夕食の費用まで支払えと言われたという。看護師からもお菓子や食事の提供を強いられ、薬は市場での購入を求められる。もろもろ含めると、出費は日本円で1万円は下らないだろう。北朝鮮の庶民にとっては相当な額だ。

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ヤンさん一家には、それだけの費用を負担する経済的な余裕がなかったようだ。ワイロの額に応じて診察、治療の順番が決められるため、待てど暮らせどヤンさんの順番は回ってこず、死亡に至った。

(参考記事:響き渡った女子中学生の悲鳴…北朝鮮「闇病院」での出来事

それに怒った遺族は咸鏡南道検察所に告発。集中的な検閲(監査)の結果、病院で不正行為が蔓延していたことがわかった。この病院では、市内の沙浦(サポ)区域在住のチェさん(20代)が今年1月に、興徳(フンドク)区域在住のハンさん(30代)は3月に、出産中に医師や看護師に適切なケアが受けられなかったことで、重体に陥ったことも判明した。

(参考記事:出産中の妊婦が「孤独死」する北朝鮮の医療崩壊

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「医療従事者としての本分を忘れカネのことしか考えていなかった」として、医師4人が当局に逮捕された。

カネもコネもない貧しい人の告発はもみ消されがちだが、ヤンさんがワイロを払えず亡くなった話は市内で急速に広まったようで、「検察所は怒れる民心をなだめるために、見せしめとして医師を逮捕した」というのが、情報筋の説明だ。

情報筋は同時に、「医療従事者の処遇改善がなされることがより重要だ」とも説明している。給与が極めて低く、国営の病院から得られる給与だけでは生活が成り立たないため、患者からワイロを受け取ったり、個人でクリニックを開業したりして現金収入を得るしかないのだ。