社会主義ではなく「拝金主義」に国の根幹を占められつつある北朝鮮。「ワイロさえ払えば何でもできる」という腐敗ぶりに対し、金正恩党委員長が大鉈(おおなた)を奮っている。
北朝鮮の平安北道(ピョンアンブクト)では、大規模な検閲(査察)が行われている。それもかつてないほどの規模で長期間に渡っているとのことだ。
平安北道のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党の検閲委員会は昨年12月20日から、税関など国の機関、工場、企業所などに対して非常に厳しい検閲を行っている。
検閲委員会とは、反党、反革命的宗派(分派)行為や党規約違反を摘発し、責任を追求する組織で、趙然俊(チョ・ヨンジュン)元党組織指導部第1副部長が指揮している。
検閲の結果、新義州(シニジュ)税関の税関員2人、市人民委員会(市役所)都市経営事務所の支配人、企業所の党書記などが摘発、更迭されたとの噂が流れている。通常は20日程度で終了する検閲だが、今回は史上最長の3ヶ月に及ぶ見込みだという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面不正腐敗の根絶は、金正恩氏が、施政方針演説にあたる「新年の辞」で取り上げるほど重要視しているものだ。
北朝鮮が国是とする「党と大衆の混然一体」を破壊し、社会主義制度をむしばむ権柄と官僚主義、不正腐敗行為は、大小をとわず一掃するための闘争の度合いを強めなければなりません。
金正恩氏は、不正腐敗が経済発展という目標達成の障害になっていると見ており、今回の厳しい検閲もそのような認識が反映されたものと見られる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面朝鮮人民軍(北朝鮮軍)に対しても、厳しい検閲が実施されている。別の情報筋によると、「食糧などの物資を将校が横流しし、私腹を肥やす行為」に対して警告がなされ、一部の部隊には兵士に与えられる食事の量をチェックするために中国製の電子秤が導入された。
軍に対しては協同農場から食料が配給されるが、部隊の幹部らによる横流しで目減りし、兵士が飢えに苦しむ事態が続いてきた。それを防ぐために給食の供給状況を監視するというわけだ。
ちなみに、2002年に改定された後方供給規定(配給に関する規定)によると、兵士1人あたり1日に穀物600グラム、食用油60グラム、野菜と山菜1キロ、水産物600グラム、肉類300グラムを配給することになっている。
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ただ、チェックされるのは重さだけなので、横流しをしている幹部らは、コメの一部を売り払い、より安いトウモロコシや豆を買って差額を着服するという以前から行われてきた手法で対処している。コメを市場に持ち込めば、トウモロコシなら2倍、豆なら2.5倍にしてもらえるのだ。
その結果、兵士が得られるのはコメ3割トウモロコシ7割のご飯と、沢庵3〜4切れだ。暖房用の薪もなく、兵士たちは氷点下20度の寒さを、貧弱な食事でしのいでいる。
今回の厳しい検閲について市民は口々に、「今回は厳しい」「恐ろしい」「捕まればヤバい」などと語り、町には緊張した空気が漂っている。北朝鮮で生きていくには、多かれ少なかれ法に触れる行為をせざるを得ない。今回は主に幹部が検閲対象となっているようだが、一般市民とて無事とは言えないからだ。密輸で生計を立ててきた人も、息を潜めて検閲が終わるのを待っている。
一方で、「検閲を頻繁に行って、人民のために奉仕しない幹部は追い落として新しい人に替わればいい。懲らしめてやってほしい」(情報筋)という意見も聞かれるようだ。
中国の習近平国家主席は、深刻な公務員の不正腐敗を根絶するため、給料を上げる代わりに違法行為には厳罰をもって対処する「アメとムチ」を使い分ける手法を取っている。
金正恩氏は習近平氏のやり方を見て不正腐敗の根絶に乗り出したのかもしれないが、中国とは大きく条件が異なる。中国の公務員は薄給ではあるが、住宅や福祉の面で非常に優遇されている。一方で北朝鮮の公務員は、給料は子どもの小遣い銭程度にしかならず、安定的な食糧配給もなければ老後の保証も心もとない。私腹を肥やす以前に、給料だけでは生きていけないのだ。
彼らの生活を安定させない限り、いくら取り締まりを行っても、ほとぼりが冷めれば元の木阿弥だ。