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北朝鮮から脱出して韓国に入国した脱北者の数は、今年9月末までの累計で3万2147人を数える。韓国を経由せず欧米諸国に定着した脱北者も少なくない。その多くが、北朝鮮に残してきた家族に仕送りをしている。

韓国のNGO、北韓人権情報センターが2014年12月に脱北者400人を対象に行なった調査では、59%が「北朝鮮に送金したことがある」と答えた。また、脱北者団体のNK知識人連帯の調査でも、51.7%が「送金したことがある」と答えた。米国務省が2014年に発表した報告書によると、脱北者が北朝鮮の家族に送金する額は、少なくとも年間1000万ドル(約11億3200万円)に達する。

韓国の脱北者団体「NK知識人連帯」によると、北朝鮮の内部文書には、額は明らかにされていないが、「脱北者からの送金は32の郡の人々に食料を与えられるほどの額だ」と記されているという。

(参考記事:韓国の脱北者「59%が北朝鮮に送金」 北朝鮮から韓国へ送金するケースも

韓国から北朝鮮へは直接送金ができないため、ブローカーに依頼して送ることになるが、今月初め、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の茂山(ムサン)の送金ブローカーが保衛部(秘密警察)に逮捕された。

茂山に住むある家族は、脱北して韓国に住む母親から年4回送られてくる仕送りで生計を立てている。今回、ブローカーから4000元(約6万5000円)を受け取ったが、ブローカーはその後すぐに逮捕されてしまった。実はこの逮捕、仕組まれたものだった。

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地元の保衛部は、何らかの理由でこの送金ブローカーを逮捕する計画を立てた。おそらくワイロをきちんと払わなかったのだろう。保衛部は、脱北者家族を呼び出して「送金されたカネの受け取りは保証してやる、今後も問題にしない」と脅迫混じりの懐柔をして、抱き込んだ。

家族は、保衛部が書いたシナリオ通りに動き、ブローカーが家を出た直後に保衛部に通報して、逮捕に至った。

ブローカーは1週間近く取り調べを受けた。押収された携帯電話から現場にいた証拠となる記録を突きつけられ、カネのやり取りをしていたことは認めたが、韓国に連絡したり、北朝鮮女性を中国に売り飛ばしたりしたことはないと否認しているとのことだ。

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保衛部は、これ以上追及しても得られるものはないと判断したのか、ブローカーに釈放と引き換えに巨額のワイロを要求した。ひどい目に合わされたブローカーは、家族を通じて3万5000元(約57万円)を保衛部に支払って釈放された。

ワイロを払おうとしないブローカーや、脱北者家族を逮捕、拷問して金を巻き上げるのは保衛部の常套手段だが、以前に比べてリスクが高まっている。北朝鮮の金正恩党委員長が今年2月、「海外送金作業は度を越さない程度なら協力せよ。ただし、その過程で発生した手数料は国庫に納めよ」との指示を下した。

今年8月末、脱北者が家族に送った送金をネコババした保衛員が摘発され、免職処分を受けている。

(参考記事:脱北者からの「仕送り」に頼る北朝鮮…ネコババ警察官を処分

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今回、保衛員は脱北者家族には手を出さず、ブローカーだけを標的にしているが、金正恩氏の指示を守りつつ、カネを巻き上げようとしたとも考えられる。しかし、それとてリスキーであることには変わりない。

「カネなしでは生きていけない世の中になったから、保衛部も職責を利用して濡れ手で粟を狙っているのだろう。相手の弱点をネタにカネをゆすりとるが、たとえ保衛員でも後になって発覚すれば問題になることもある」(両江道<リャンガンド>出身の脱北者、キム・ソンスク<仮名>さん)