「オレの青春を返せ!」金正恩批判がバレてしまったある兵士の運命

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最近、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の内部では、思想教育を目的とした政治講演会が相次いで開かれている。そこで語られるのは「敵の言葉に耳を傾け、だらける現象を徹底的に退治、全滅させなければならない」などと言った内容だ。

核戦争の恐怖が高まりつつあった昨年とは一変し、今年に入ってから南北、米朝の首脳会談が相次いで開かれ、朝鮮半島には和平ムードが漂っているが、そのような「平和ボケ」を戒める目的があると思われるが、直接のきっかけは下士官の「床屋政談」だ。

男女の「愛の行為」も処罰

デイリーNKと連絡を取り合う北朝鮮高官筋によると、「李」という名の下士(伍長)は、慈江道(チャガンド)江界(カンゲ)市の南門洞(ナムムンドン)にある北西部ロケット保管地下坑道、つまりミサイルの地下保管庫で勤務していた。江界は、北朝鮮随一の軍需工業地帯として知られる。

李下士らは勤務中にも関わらず飲酒し、「床屋政談」ならぬ「ミサイル保管庫政談」にふけっていた。その場で彼が語ったのは、次のような話だ。

「南朝鮮(韓国)も米国も、わが国(北朝鮮)がロケットと核兵器を作らない限り戦争はしないと言っている。やつら(米韓)も平和を望んでいるに、自分たちは10年、13年も兵役について地下坑道を守っているのは道理に合わない。こんなところで何十人、何百人もの若者が青春を無駄にしているのは悲しいことだ」

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そんな話をしたことを、その場にいた保衛部(秘密警察)のスパイに密告され、李下士は逮捕された。彼は勤務中に飲酒したことと、朝鮮労働党の政策を批判した罪で労働鍛錬刑1年を宣告、営倉(軍用の留置房)送りになってしまった。

北朝鮮には、軍関係者だけに適用される軍法が存在するのかどうかは確認されていないが、民間人と同じ法に基づいて処罰されたとすれば、このような法律が適用されたものと思われる。

刑法74条(命令、決定、指示執行怠慢罪) 朝鮮民主主義人民共和国主席、国防委員会委員長、国防委員会第1委員長、最高司令官の命令、党中央軍事委員会の命令、決定、指示、国防委員会の決定、指示に適時に正確に執行しなかった者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状を複数回行った場合には5年以下の労働教化刑に処す。罪状の重い場合には5年以上10年以下の労働強化刑に処す。

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国家の最高指導者、つまりは金正恩党委員長に楯突くことは絶対に許さないということだ。最近では「重要任務」をほったらかしにして「愛の行為」にふけっていたカップルが処罰された例もある。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

李下士は釈放後、過誤除隊(不名誉除隊)の処分が下され、一般の労働者に格下げされ、炭鉱送りになる見込みだ。真面目に勤務していれば入党の推薦がもらえ、大学に進学できたかも知れないが、酒の勢いで口を滑らせたことで、一生悔やむことになるかもしれない。

別の見方もある。下手をすれば収容所送りになりかねない「言葉反動」(政府批判)で、懲役1年で済まされたということは、李下士の家庭にはそれなりのコネと財力がある可能性も考えられる。北朝鮮では刑事犯の量刑を含め、ほとんどのことがワイロの額で決まるからだ。だとすると、除隊後の李下士の人生も、そうそう悪いものにはならないかもしれない。

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いずれにせよ、リ下士はスケープゴートにされた形だが、兵士の間では下手なことを言えば誰に密告されてひどい目に遭わされるかわからないという不安感が高まっている。

「聞きかじった話を下手に口にすれば、保衛部のスパイに密告されて一生が台無しになる。もう誰も信じられない」(末端の兵士)

しかし、最高指導者の命令ですらほとぼりが冷めればウヤムヤ、骨抜きにされるのが北朝鮮である。しばらくすれば、兵士たちはまた「床屋政談」に夢中になるだろう。